Feb 26, 2005
かりに(1996.9.10)
風下の種火は
たちまちに草木に広がっていく
つつましく蘆でできた鳥の巣も
火の玉になって散っていく
見事に意識されない石だけが
熱くなり
そして冷え
黒焦げの草木のあいだに
ぷつぷつと燻っている
その高速移動の果て
曇天が囁き
山が黒く四囲を巡る地方
おそらく花を愛でるだろう
新聞はもう来ないかもしれない
ときどき地下室での筆記に
記すかもしれない
「かりに」と
「かりに」
と記すとき俗のまっただ中に堕ちるだろう
かりに
コスモスの畑のなかの
つば広帽子のあなたが
あんなに楽しく歩くのなら
もしも
花がそんなに鮮やかにスケッチされるのなら
たぶん焼けた石のぷつぷつする
野は
いちめんの俗に堕ちるだろう
かりに
老婆が野を歩いているのなら
それは少女が野を歩いていると
そう記せ
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