Feb 28, 2005

灰皿町のblosxom blogを増やす

たまたま桐田さんがMac使いなので、MacのIEなどのテストが外部からできるので助かります。
これから灰皿町でこのblosxom blogをやってみたい方は、ご一報ください。

まず有働薫さんと高田昭子さんのblosxom blogを増やしました。
初め面倒かもしれませんが、おもしろいですよ。

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Feb 26, 2005

EUC-JPからUTF-8に変換する。

iconvというのを使うと簡単なことがわかった。
brというフォルダにあるEUC-JPのファイルをutfというフォルダに一括変換して保存する。

open IN, "dir.dat";
@hen = <IN>;
foreach $hen(@hen){
@new = iconv -f EUC-JP -t UTF-8 ./br/$hen;
open OUT, ">./utf/$hen";
print OUT @new;
}

------------------------

試しに『清水鱗造 週刊詩』の最初の3編を入れてみたが、アップロード順に整理されるため表示の順番に合わせてアップロードする必要がある。
これは手間ではないけれど、表示の問題がある。
右のカテゴリの「poem」というのを押すと、詩だけ表示されるし、そのURLも固定はされるのだが。あと一考。

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引き出しの灰(1996.7.9)


消しゴムで消す
へのへのもへじ

もじゃもじゃ頭のカツオに目薬
掌に水芭蕉
そんな青い季節です

(引き出しにはネズミの死骸
 だから怖くて開けられない)

消しゴムが日々の澱を消す
忘れっちまって
忘れってまって

カツオに目薬
いやにしみるね

その灰は骨から
その灰は紙幣から

引き出しから取り出して
投げる灰の虹

ほら、あんなところでファックしているよ

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暗い駅(1996.6.18)


米粒に絵を描く

豚が飛んでいる
豚が飛んでいる

米粒に茶碗を描く
お茶が飛んでいる
みみずが飛んでいる
霧が手を出してお茶を啜っている

コンセントを挿す
ぼっと明りが点く

足跡が飛んでいる
泥に付いた足跡が飛ぶ

夏の前哨戦の風
蒸気
ネズミモチの花

僕の靴下は女の下宿
僕の靴下は女の下宿

僕はマダラの蝶みたいに
耳に粘土を入れていた
僕は尻に椅子をつけて歩いていた

あのイグサ イグサ
あの暗い駅

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垂線(1996.6.11)


灰がビルの谷間に駆け抜けていく

いくつかの谷間に沿って街ができた
おびただしい文人がその旅篭に泊り
たくさんの色紙を残していった
紙は紙魚に食われ 穴が開き
墨はかすれ
やがて灰になった

血で血を洗う戦いは
やがて微小な刺の残骸になり
ポインターを連れた避暑の男が
古磁器の深く埋まる山の際を
歩いていく

その仕事の最中 彼はふと横を向く
そのように武士が横を向いた谷間
川はまだ天然の鮎をたくさん
含んで流れている

垂線 埋葬 祈り

ほんとうに祈りの言葉がこの谷間に充満したことが
あったのか
ほんとうに

確かなのは
透明な僧がここを通り過ぎたことだけ
その僧を垣根の隙間から見た
若い母こそ
じつは
その僧以上の求道者だった
それだけは確かなことだった

いま一台の四輪駆動車が砂利の音をたてて
寺の間に入っていく

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砂の旅(1998.3.24)


犬の喉の音でふと目覚めると
明け方の街の音が遠くに聞こえる
環状線の車が走る音は
東のほうから小さな響きで
まだビルから出た2本の手の先では
光が点滅しているだろう

犬は眠っていて
猫は起きたのに気づき
しっぽを立てて
あいさつに来る

遠いノイズは冷たい空気を
伝ってくる
無音の時は
一刻もない

だから
砂は
滑り落ち
何回も旅に出る

微かな湿りが
アスファルト上に降る

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かりに(1996.9.10)


風下の種火は
たちまちに草木に広がっていく
つつましく蘆でできた鳥の巣も
火の玉になって散っていく
見事に意識されない石だけが
熱くなり
そして冷え
黒焦げの草木のあいだに
ぷつぷつと燻っている

その高速移動の果て
曇天が囁き
山が黒く四囲を巡る地方

おそらく花を愛でるだろう
新聞はもう来ないかもしれない
ときどき地下室での筆記に
記すかもしれない
「かりに」と

「かりに」
と記すとき俗のまっただ中に堕ちるだろう
かりに
コスモスの畑のなかの
つば広帽子のあなたが
あんなに楽しく歩くのなら
もしも
花がそんなに鮮やかにスケッチされるのなら

たぶん焼けた石のぷつぷつする
野は
いちめんの俗に堕ちるだろう
かりに
老婆が野を歩いているのなら
それは少女が野を歩いていると
そう記せ

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抗菌六角形(1998.7.14)


抗菌をほどこした
六角形が平面にある
平面のはじはどことも知れない
菌類は六角形を避ける
つまりは
蜂の巣の区切りの洞に
菌類は繁殖するのだが
その壁の六角形には
菌が生えない
という
のに似ているが
ぼくはその
六角形をじっと見ているしかない
菌類が
外側からじわじわと来て
抗菌六角形は抗い
外数ミリは白い面を残す
つまりは白い六角形は
抗菌六角形の拡大形である

六角形の内部はどうだろうか
胞は飛ぶ
菌は六角形の上空数ミリの外を通過する限りは
六角形の内部に落ちる
つまり六角形の内側に
菌は生える
そして抗菌六角形の内部数ミリに
白い六角形の縮小形ができる

六角形の彼方平面の無限
つまり
全部は菌類の背景に
三つの六角形がある

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白い街(1997.4.22)


白い街だ
犬がうずくまっている
電柱の線が信号の向こうまで行っていて
まだ寒いのに
半袖で
マーケットの前を過ぎる

白いクリーム
食卓のコーヒーの表面を渦巻いて
映る顔が
揺らぐ

路が
静かに走る車を載せ
カップの円の向こうに
電線がつづく

いつここに来てしまったのだろう
いつ
顔が溶けて
白い路を歩きはじめてしまったのだろう

囁きの中に針が
でも
なにかつーんと耳に通じるかぐわしい針
あの
駐車場のすみに
血液が
うずくまっている

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水路からバサバサ(2001.5.29)


この水が生きる季節は
水路の掃除をする
こんな家回りにも繁茂した
水草 ワカメのような
小ザカナはついついと

胸までのゴムで武装して
水路の外に水草をほうり投げる

日が陰ったり照りつけたり
気持ちよく水につかっていると
赤い服のあなたが
模造の緑を水に投げ込む
どんどん

「水草、いい感じなんでしょ」
笑っていう
そうなんだよね
水路から
バサバサ

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傷(1998.11.10)


もし頬に傷がないのなら
あなたは僕を好めない
なぜなら
けっしてあなたは
あなたの傷を見る僕の目を
見ることができないから

傷がどのへんにあるのかを
探したりはしないけれど
流星のような傷が
あなたの外の
森のなかに落ちていることもない

耳たぶに触る
でもその柔らかい肉の完璧な造りは
予兆にはならない

予兆はただ
夕闇の
白い横顔の頬に
針のように流れる
見えない傷だけだから

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いいね(2000.3.14)


すれっからしの
安たばこの1本みたいなのが
ようよう灰色の味が
身に染みる
ちょうど
とことこいく軽トラックが
のんびり高速道路を走るように
なんだか気分いいじゃない

ずいぶん来た
はるかな雑草という具合だ
からりとグラスの氷の音がする
この音色は
いいもんだ

もし汝
赤いスポーツカーがはじめにありき
だったらつまらない

汝 はじめにハードな日々の
ががんぼの取れた足ありき
いいね

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水音(2000.11.28)


水芹がなびく水路沿いに
歩を進めていく

あのとき
軽やかなものがふと沈み
木々が池の前景にあって
そして羽がなでていく

戦があって
忘れさられる

隣村のポチはおとなしい犬で
週に一度しか出会わなかったけれど
ぼくの顔を覚えていて尻尾をふった
あのポチにはもう会えない

そのように
軽やかなものが
戦に壊れ
いつしか顔を羽はなでる

水芹
なびく水芹
歩を進めるにしたがい
音が湧いてくる

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カラス(2000.5.2)


いつも2時ごろになると
カラスは
かかかかかか
という低音のトレモロを奏でた

で今日は厚い辞書を引いているときに
滑稽な歌を歌う
たぶん
カラスはぼくが好きで
ぼくもカラスが好きだから

きみは今日こそ
ぼくに何かを言おうとしている

かっかかかではなく
ごちゃごちゃの糸の塊みたいなことを
つまりは
ぼくがでたらめが好きなことを
きみは知っている

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ウェザー・リポート(1999.1.26)


風はひんまがって
童話の大袋を
飛ばしていく
等圧線にうなだれる
春の雲
魚の
ひらりとした線が
小さい蜘蛛を
口に入れていく

あの
天秤
崩れやすい層雲の
雨雲の
灰を除け
電線
割れるような無音
ランドサットが
白い犬に
綿ぼこりのように圏点を打つ

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雲を見上げる人(1998.2.17)


高原に行くと
裂きイカを食べたくなる
生物というのは排気を
後ろのほうに引きずっている
酒も飲まずに
裂きイカを食う
ワゴンはあまりの傾斜に
駐車できない
ずるずると下がっていく

たぶん西だろう
その庭に出るガラス戸は

ペットボトルで作られた風車が
融け残る雪のうえの枝で
からから回る

僕たちのプリンスたちは
いま競馬場にいるかもしれない
煙草の吸い殻を
舗道に踏みつけて

希釈された彼らもたぶん
ほんとうは数百キロ離れた男が見上げた
雲の分裂に託された
錐になっている

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夢の陶器(2000.10.10)


家並みが見えるね

キリコは言う
さくさくした
パウンドケーキのような

雲にはトゲの稲妻が光り
皿に載る花火付きのケーキは
二段重ねで足でつぶせる紙みたい

ところで
あんたって
私んちを通りすぎて
すぐに私のことは忘れて

ひとりで水と遊んでいるでしょう

亀甲の一区切りにあんたは
たたずんで
もやもやしてるのかな

お話を吸うスポンジケーキ
それで
そこから小さい小さい鳥が飛ぶ
でも
それはやっぱり霧みたいに見えるのね

キリコは五百円玉を
出窓の貯金箱に落とす

ざらついた夢の陶器

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草を追う(2000.8.29)


朽ちた船
周りの砂地には
ぼけっ と雑草が
流木にインスタントカメラを置く

海から山に登る道と
左に行くと雑木林をぬけて
集落に出る

小高い山の斜面には柑橘類の畑
とちぢんだような松の幼木がある
左の道の雑木林の向こうには
池があって
小魚も見えるだろう

どちらに行ってみよう
道はどちらにしろ
埃っぽく
汗がおちると
たちまち乾く

日を追って
道端の
草を追う

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犬への文書(1997.1.21)


しっぽのほうに
這っていく文書
古い
まだ毛生え薬のないころの
禿の文書が
つややかな毛並みに沿って
這っていく

船は水を求めて座礁していた
砂にまみれて
列車は線路を求めて
寝ていた
海溝に

犬は右隣にいる
僕らは写真に写る
いい
帆柱に勢いよく揺れる旗のように
いい

廃屋の鍵を挿し込むと
向こうからも鍵を挿している

暴かれないものがほとんどだった
100の鍵束の
そのひとつの
文書が
しっぽに向かって這う
清潔な毛の先だ

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逃げ水(2001.8.14)


クスリ屋さんが駅前にあって
クスリもずいぶん安くなってるもんだ
狭い道があって
ウサギなどが行き来している
汗をかいて
アイスコーヒーのラージサイズを飲む

話が耳鳴り
耳鳴り
ヒマワリがね

釣りに行きたい
青い魚を捕らえて

アスファルトに
逃げ水

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夜11時に書く日記(1997.10.21)


薄曇りの日
片目のつぶれた猫が
伸びをしている

夕方には雨が降りだした
でも彼は恵比寿までチャリで行くことにしている

夜のカラスも鳴き
煤けた闇に
コツコツとハイヒールの音が響く

今日は蕪の煮物を食べた
べったら漬けも

犬もあくびをする

そして
妻は眠っている
風呂では湯気がやがて滴になり
お茶は冷え
3日経った回覧板は
通販のカタログの上に放ってある

遠くのビルの先端で
二つのライトが
ゆっくり点滅し
今日の絵の具は
最後の色を
流す

窓ガラスをぬけてぼくが浮遊を始めるまえ

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ある遠近(2000.9.19)


小さいものより
大きいものが大事とは
さくらんぼの思想で
古いバケツにはいっている

粘液みたいのが
拒みつつ
地平線に波打つのだが
もうプレートの上の小さなものに
大きなものが飲みこまれている

ちろちろ燃えてる火
プレートの上の
大きい街並みが
盗人を含み
手配を含み

さくらんぼのアタマは
酔いどれの道に
濃い血痕を残して
道にバケツを
がんがんぶつけている

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洪水(1999.1.12)


気圏に罅のある休日
光と花が漏れる
皿の上に
一筋
老女は杖をつき
土手を歩く

ようやく
鳥たちが輪を描きはじめている
漏れる
かすかに屍が
その耳より

洪水が訪れる

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涵養される机(1999.2.2)


机の畑
涵養されるか

耕される

やせぎすでびくびくと
畝を歩いている
机の上の

いま
小さな手で耳を押さえる
微小な人が
見える
響きが
煙のように
机の上を這っている

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ある無音(1999.7.20)


広い駐車場 白い建物のすがた
僕は植え込みの石に座り
夜のたばこを吸う
だれもいない
近くの街の光 隔離された棟
何も考えてはいなかったと思う
ただ 広い平面を見て
たばこを吸う

建物の中については考えない
強いていえば
いま思い出す空のそのへんに
三角錐のかたちを単に
浮かべてみること

1階の舗道に面した部屋にいるひとが
ふと立ち上がった僕を見て
カーテンをゆっくりと閉める

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五月挽歌(1997.5.13)


骨壺の包みは
マニエリスム好みのNさんの書棚には
合っていなかった

線香はしゃれた官能的な香ではなく
親しい匂いで
その煙の形は
美術書の背にマッチしている

つげ義春の漫画で
死体の周りで饗宴し
ついにはふざけて死体を持ち上げたりする
というのがあったが
いたずらに
死を何かの色に染めるより
彼の「ゆいごん」のように
何もやらないのもいい

というようなことを連想しても
いいものかどうか
死者に気兼ねするのだが
死者もふだんの僕を
僕と同じ距離だけわかっていなかったろうから
仕方ない

僕が知るのはそれだけだ
Nさんはどんな人であるのか

窓は開け放たれていた
窓の向こうにやはり街路はつづく
遺品のジーンズをもらった
僕はあなたの言葉と
あなたの愛した女性に会いに
この部屋に来た

そのように街路がつづいていたのだ

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青(1999.1.19)


シャーレのふちに
わたしの襤褸がある
その襤褸を
風のように着て
放浪者は
虫になって吹いていった

みしみし いう

毒虫の甘い汁が
舌に染みて

シャーレのふちに
わたしの生温い旅が
はらわたの紐の
靡きになり
微かな戦士が
映って
青に染みていく

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時代の霧(1999.3.9)


雲が過ぎると
透明な三角錐が
回って近づいてくる
そのガラスが通ると
花がくる

三角錐は1分の時代で
花も1日の時代で

やがて四方山話をする
縁側の男たちは
亡くなる
そのうえ
縁側の板も腐る
(板の湿りにゾウリムシ)

山の木々のあいだの
星は運行し
1秒の時代は霧になって
飛ぶだろう
星のおもてを

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栞となる鳥(2000.11.7)


いろいろなんで
屋根の鳥が
ぼくに「ちょいちょい」と言っている
あいつら怖いものが多いくせに
平然としている

同じ景色を見るのに飽きるのはなぜだろう
同じ本を何回も読んで飽きない場合もある
悪いことを考えて歩く街
パズルを解きながら
ただ景色の一端になって
買い物もする

セピア色
あの崖のあの星
ページをめくると
見開きに
ちょいちょいと鳴きながら
鳥が通りすぎていく

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黒い手帳(2000.2.1)


あるクラブの名前を書いた紙を
はさんでおいた手帳を
ロッカーに置いてきてしまう

隠した花は
いつのまにか潰れていて
紙片には紅い染みだけがついているのだが
せいぜい街にまぎれてしまい
ただ紅い残像だけが
歩くときにあたりに漂っている

暗い引出しの中で花はまず重力で崩れ
紙に張り付くように広がり
そして腐り
におい
乾いて
紙に染みだけが残る

駅から地上に出ると
赤に打たれ
そして赤から離れ
タバコを買うと
桃色の水が路地を流れ
赤は消えて
暗証番号を押す

ぼくは字を書く
黒い手帳の次をめくると
紅く女陰のようにシンメトリな染みが
かがり糸までも紅くして
乾いている

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C棟3号(2000.11.21)


さて会が終わると
抱いてきた子猫がいないのに気づく
瞬間的に客は庭園の向こうに移動してしまった
捜しはじめる

この建物は長くて8階ぐらいまである
入口と反対方向に向かうと
すぐ和風の造りにした寄席の階に着く
ここにも誰も来ている人はいないが
メモが落ちていて
C棟3号
と書いてある

C棟とは斜め上の鍵状の向こう側である
たちまち8階のバルコニーに出る
すると
どこからともなく
捜していた子猫が現われた
よかった
抱きあげて1階分下りると
すでに1階である

そういえばいとこのJさんが1階の入口付近で
展示会を開いているとのこと
覗くと展示会の部屋は菓子の空き袋が散らかっている

ぼくは猫に
「帰りにペットショップでカゴを買わなきゃ
 抱っこじゃ疲れるよね」
と言うと
子猫は初めて日本語をしゃべる
「そうだよ
 初めからカゴで連れてきてくれれば」
それをきっかけに
ずいぶん話したと思う

「あの人は目が見えないの?」
ぼくは「君も拾ってきたときから片目だし」
猫の目を見ると見えるほうが少し白目がちになっている
でもすぐにきれいな目になる

抱いて外に出ると
予告編がはじまっている
紅い車で水流を走る話だ

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哲学者としての玉虫(1997.7.22)


上空に玉虫が飛んでいる
雲の端にたしかに認めた

メガネのレンズの反射を
彼は見て
廃園を見下ろし
やはり
と思ったかもしれない
訪ねてくる人は
ぜんぶアブラだ
アブラ


でも空の見えない角を
なんて直角に
風に応じて虫は曲がるんだ
哲学者の意思は
すっかり生活までも
瑠璃色に染めてしまう

上空の哲学者
玉虫

さて僕は
木造建築の要素を
古い水になる窓を
染めてしまおう

刈り取られた雑草の間に
ぎらりと光った
凹レンズの明るい矢が
たぶん
絵日記のように
その
キチン質の
ミクロの
穴に
入り込む
経度緯度が
この夏の印影だ

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時計塔(2000.8.8)


熊のぬいぐるみが
怪物になる夜
子猫がライオンになる夜
そんな夜を
たどりながら
幾夜も
見る

渇きにけしかけられて
なまぐさいところへと劇を
幾夜も演じるという
二重の街


時計塔
ピューマの描かれた文字盤
1935年ごろの行進が
恋が
いまごろにじんでいる

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イワシの群れ(1996.10.29)


イワシが曲がってくる
街角から
群れをなして
こちらのビンの中に

眼鏡のガラスの縁に
細かい魚が通りすぎ
冬のにおいを嗅いだ
かすかな青魚の
はらわたの
におい
耳元のイヤホンでは
デスペレートでも
明るい音楽が鳴っている

あの人の苗字がちぢに
くだけて
しばらく思い出せないのが
茶色い駅に着くと
集合して
淡い氏名が
人々のなかをすっと通り抜け
改札口から地下に沈んでいった

ちぢに
名称はくだけ
はらわたのにおいをたなびかせ
地下駅に
沈んでいく

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百日紅(2000.9.26)


濡れ縁に座って
池の小魚を眺めていると
きものを着た隣の人が
スポーツ紙を読みながら歩いている

こちらも三面記事を見ながら
お茶を啜り
百日紅の終わりの花のフリルのような花びらを
いじったりする

これから日光へ紅葉を見に行ったり
横浜に釣りに行ったりとも思うけど
テントの中の人形劇が
何か輪郭を求めてさまよっているのがわかる

そして 夜 夏はまだ

「あの日々」と言ってみたくなる

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口紅型ライター(1999.7.13)


口紅型のライターを
かばんから取り出すと
 ゆだんもすきもないんだから

ライターは探していたものだという

きのう角のたばこ屋の自動販売機で
白箱に入った100円ライターを買って
道々
たばこを吸った

積乱雲が東に見え
鳥の首のような風洞がみな北西に向く

 バイオの赤、口紅

えらくもなく、夏のよじれる花

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せつないヴィジョン(1997.1.14)


鋭い人が
ミルクのように崩れる瞬間がある

せつないヴィジョン
たとえば
ふつふつと煮えている男女が
ちょうど正午
パン屋の前で
出くわす
そして
きつく抱き合う
キスする

葉脈が肉を落とし
落下する昼間
あなたへの査定は
貸金庫の
せつないヴィジョンは問題にされない

朝市が始まり
見えだす女

ガラスに映るいかつい髭面

不条理劇のエキスパートが
ミルクのように崩れる
理路が黄色くまだらに

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鯛焼き(1997.11.18)


やがて地下鉄電車は
渋谷駅に入った
人々は青い椅子や白線のところに
たむろして
ドアが開くのを待っている

僕は人の出入りは気にせずドア付近で
ぼんやりしていた

ちょうど目の前は階段の下だ
OLふうの女性がふたり
鯛焼きを袋から出し
熱いので手の上で跳ねさせている
やがて鯛焼きは同時にふたりの口に入る
「おいしいね」
と言ったのが
唇の動きから
わかる
電車は急行に乗るために待っている人を残し
闇に入っていく

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亀裂があいさつする(1997.3.5)


雁字がらめにしばられ
包帯男が蹌踉として
歩いている
トイレットペーパーに十文字に巻かれ
ラッパ水仙に吸い込まれる
包帯男の群像

ぞろぞろ
花弁の細い道に沿い
紙を後ろに垂らして

黒いジャケットのポケットに水仙を
詰め込んで
地下鉄への階段を下りていく
昼の月の


いまテーブルの
皿の上の駅を
フォークでつまみ
駅の女の年齢を聞き
忘れてしまう数を
そのまま風に吹かせてしまう

亀裂が亀裂に出会うとき
霧吹きで互いを濡らす
あいさつをする街

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水面の火(1999.3.30)


水草は
なびいている
その葉に水沢のからだを宿して

水沢は春の箱で
風を立方体に切断する
つまりのこぎりで切る
氷の煉瓦のように
風を沢に積んでいく
その継ぎ目を虫はすりぬけ
そのときに
翅は屈折し
血管のような筋が
グラスの表についていく

涯は箱にある
でも涯は目にもある

ぼうぼうと繁るものに戻り
また往くようにして
微小な火が
真昼に
水を走る

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蓋がない(1998.11.24)


テーブルの
からのジャムの瓶の蓋を
探している
手のひらで包み込むくらいの
空に境界を作るために

蓋は僕が開ける
空気は耳から抜けるような
すーっと音にならない音で
瓶から移動する
たぶん
瓶には僕が目を凝らす
45度前方のテーブルまでの空と
同じものを宿す

蓋がない
蓋が夢になる
そう
蓋が夢なんて
蓋が

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ある駅の陰(1997.2.18)


時折り
ある駅前の街が浮かんでくる
黄色と黒の遮断機
質屋のガラスケースの古いギター
額のあたりに木漏れ日をまだらに受けて
歩いている駅前の
街が

噴水が黒い水を夕陽に
すすけた屋根が続いていた
管から噴いていたもの
いつごろから水たまりを作ったのか

右のこめかみ
駅に上る階段の陰が
庇のように連なってくる
見られていたのだろうか
そうは思えない

あの人が現れるのは
まだずっと後だった
小さな響きが始まるのは

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アタマを運ぶ高速バス(1997.7.1)


車窓からは緑の景色と遮蔽物が
交互に流れていく
バスの上には渋滞5キロというような
インフォメーションが電光掲示板に出て
丸く口を開けて寝ている人もいる
いい天気で下のワゴン車の後部座席には
幼い子が寝ているし
助手席には女の太ももが見える
禁煙
バス会社の方、僕の健康を考えてくれてありがとう
禁煙印はいつも僕の健康のことを思ってくれている
よけいなお世話だけどね
少なくともバスを降りるまでは煙草は吸えない
いつか厚木付近で事故があり
珍しく途中のレストランの前で5分停車したことがあった
霧雨のなかで帽子をかぶった運転手が
うまそうに煙草を吸っていたのを思い出す
僕の趣味にあなたは興味がない
だから「チョコレート食べる?」というような
言葉がのどかな車内をつくる
アタマのなかの趣味
他愛なくもない趣味
アタマはのどかでない
でもいいんじゃない
のどかでなくても
風景が飛び
明るい高速道路がみんなの趣味を運ぶ

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一年草(1998.6.30)


ひょろ長い葉が
編んでいる日がな一日
そいつらはまだらに
地面に生えていて
時折キュラソの口を開けて
青い汁を出したりする
斜めに日に波をつくり
水を求めているふうもない

耳の後ろの乾いた毛
白金のネックレスも
黄色いピアスもない
ただ水溜まりを地上1メートル70センチの皿に
ぷかぷか支えて歩いている
脳の上の風を感じる触角

水皿 水皿
長くなびく
一年草
それで虹の染みを
白い布に飛び散らせている
まだらな青い演技で
膨らんで
乾いたり
湿ったりして匍匐していく

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並木(1997.10.28)


黄色い並木道は
細く遠くに続き
葉の色や実は
嚢状に
つながれた
まがまがしいものであるけれど
並木が手のひらの上で
ケイカク性を持ち
脱色されるまで

また
並木は
手のひらから指の先まで続く

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渦(2000.8.1)


眠り林の
熱い葉のうえ
眠るぼく

血の街の
折れ曲がった路地と
ビルの垂直の番地と
眠り林

眠りの水の溜まり
ぼくの渇きは
漏斗状になって
走る渦

見えない
皮下出血の斑点

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透明なトランク(1999.8.17)


ドラゴンフライは
ボンネットの上でのんびり
これからつるつるの車体は
街を映す

透明なトランクを持って
君が向こうに行くのはいつかな

手をこうして広げて
道をじぐざぐに行くのは
大人のすることじゃない
でも
手を羽にして
そうして
この1丁目から2丁目に入るように
透けた境を行って

それからおもむろに
もう何万年もいないように
たんに
つるつるのボンネットが
246を走るのは
なんか
つーんと
途方に暮れる
木偶が走っているような僕だ
透明なトランクの中身が
透明な荷物であることは
しごくもっともで
途方に暮れる

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涼子ちゃんはマルボロを吸う(1997.10.14)


仕事の帰りみち
疲れた涼子ちゃんは
マルボロを吸いながら歩く

傷のある上弦の月
点滅するコーン
ヘルメットを着けた夜中の工事人が
マンホールからぬっと顔を出す夜

モグラたたきの
槌を思い
マルボロの煙を
ふっ
ふっ

空は魚の絵柄

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靴の上の砂(1996.11.26)


ふと靴のほこりが
円錐の渦になって
立つ
波が寄せて返す岩の
隙間の
潮だまり
アスファルトの潮だまりに
駒がいくつもひゅーひゅーと過ぎていく

ボウフラが空き缶の水にいた夏の
どこかのどぶ川のそばにいる
ひっかき傷をつけた猫が
僕の頭の上を浮いていく
恋に封をした
のは
洪水を防ぐためで
靴の裏側から
地面にかけて
円錐状に
僕の水が
歌う人を
含んでいて
パラドクシカルな砂が
いくつもの
てのひらの街を
徘徊している
眠らない街のように
滑り降りている

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赤い花(1999.9.21)


彼岸花とすすきが
交じっている
罅は
滑らかに
日々の面に色をつける
白いパレットの
水彩絵の具

たぶんあの水は
とても大きい要素だが
赤い花が
次々に沈むので
保っている


僕の街はわりと勁いだろ

それは街を耳で聞いているから
その斑らを
じっと聞いているから

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黄色いナンバープレート(1998.2.3)


水底のほうから
黄色いナンバープレートが浮かんでくる
数字は引っ掻き傷で消えかかっている

老人が三人いる
どうしてこうも
はっきりとしたものが顔に出るのだろう

ナンバープレートの境地は
黄色いことで
性格を表わし
それはすべてで
淵のほうから上がることで
示されるのは
フィールドが消えていることだ

方眼紙が
景を分割する
推移は
そのように微量の色の砂を
こぼす過程のように
なっている

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反る板(1999.6.29)


小屋の
板が浮いてくるので
5寸釘を打つ
反りの力は
とめることはできない

余りというものは
追求することで
レポートも書ける
でも余りは
反る板のように
いつもヒトから浮き上がる

熱い昼の舗道に
虹の余剰が飛沫になって降ってくる

小屋は彩られた家になり
また雪洞になる
つかの間 余りを旅して

それから飛沫が沈むと
葉裏が照りかえる
梅雨の晴れ間に
海のにおいがくる
道を歩いている

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正午に下る坂(1999.4.20)


腕時計は
汗でぬるぬるする
木の階段を上ると
青い深い靄が
空の底のほうに
化学実験のように
ちぎれていく
上りながら
かすかに少年の独唱が
耳に響いている
頂きに
暈をかぶっている自分が見えてくる

正午に
下る坂
針はただ一本の矢印になり
文字盤は花びらの付け根のように
白く見える

正午に未明に向かい下る坂
まひる
野の生理に下る坂
少年の声は小さくなり
青は濃く
昼の星がいくつか見えている

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豹(1996.12.10)


皮膚の内側を豹が走る
血管の網目を蹴って
ときどき背中のあたりでじっとするのだが

砂みたいな誕生日
それも
色のない野原に
かさぶたを目の前に垂らした
傷ついたウサギを遊ばせて
瓶入りのやつをたくさん作ったから

ひとつひとつ割っていく
豹は笑う
チューブのなかを
ぴりぴり稚い目を据えて

砂を耳からこぼして
寝返りをうつ

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猫は(1999.10.5)


猫は
長屋の板の穴くぐって
裏の石に座ってタバコを吸っている
カップ酒のカップが
汚れた人形のあいだに転がっているし
割れガラスはガムテープで補修してある
窓から見えるテレビは
サンドストームで
古い新聞が袋に溢れている

猫は
爪を立ててタバコを右手に持って
ヤブガラシの蔓の向こうの
もう一つの長屋の玄関を見ている
裸電球が昼なのに点いていて
おしろい花がはみ出している

夜逃げって
なんかいい
遠い不知火海岸とかってふう

どんな場合だって
女の尻はつるつるのお肌
女の尻はつるつるのお肌

猫は

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カーニバル(2000.2.22)


願わくば
濃い虹のカーニバルを!

食べ物を備え
男は緩い服を着て
髭をのばし
女は胸の開いた服を着て
光るスパンコールを胸につけて
愛の物語を
シミュレーションする

僕たちは窓から咲き乱れる花々を見て
ピンクの飲み物を飲む
枷はないし
(あいつらの作る枷をじっくり壊して)

昼のワイングラスには
日光を閉じ込めるぐらいに
濃い液体が
虹を詰めて

カーニバルを待っている

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断片(1997.1.7)


雨戸を閉めなければ
灯油を撒く人もいるから
カーテンが燃える
床が燃える
布団のほうにも来る

ふと起きた夜中
住宅街は静まりかえっている

断片がしみじみと尽きてゆくね
あの地下の時代
それは財と同じくらい貧しいだろうか
尽きてゆくのは甘受していた曲がり角にいる
ピエロの眼が
小さな汚い箱に断片を収めたからだ
掘り返される群れ
昆虫や菌のように
小さな群れ

起きると夢は
光る床の上に消えている

たてがみを持って
夜中のコーヒーを啜る足下で
犬が見上げる
ゴースト
意味のない言葉を犬は聞いている

地上で尽きながら
断片は頭上に
ちらちらと増える

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位相空間(1996.11.19)


カラスの群れは
雲の隙から棒状に伸びる陽光のあいだを飛んでいる
僕は自分の動物的な勘を恐れる
それは強迫観念にも似た
暗示体系だ

群れはふつう組織された群能とよぶべき
規則に従って
真下のヒバの木に吸い込まれ
また放出される

コーヒーを飲み
アトラクタを見ているときに
ふいに
黄色が点滅する
それは
ふつう仰角からの視線によって
論理的に見捨てられ
時系列の記述によって
生体の現象の要素に還元されるべきものだ

でもどうだ
あの陽光の棒が宗教的でもなく世俗的でもなく
黒い気分のかたまりと交じり
a,b,c,dの四つの軸のうち一つに
日常のこなすべき時間の軸に旗
目の快楽の軸に旗
遊びの軸に旗
そして短いもう一つの軸に
黄色い点滅の旗が掲げられている

その加速度を介した対数軸と
数人の人のそれぞれの加速度を介した対数軸の
位相空間では
やがて
なんでもない旅をつくり
そしてほんとうに
あの暗示体系は
消滅する

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僕を旅している街(2000.2.8)


「毛細血管がヒトミにまで来ていますね
 酸素が足りなかったのでしょう」

小さな旅に出る

「あなたが生成した隠微な花は
 でも張り付いていますよ」

旅は地下鉄の七つ目の駅を降りた
路地だ
変哲もない建物の一角にその家はある

たぶん
僕が街を旅しているのではなく
街が
僕を旅しているように思える
でなければ
境もなく どうして自動販売機と
塀とドアとつながっているのか

廊下には
普通の服を着たOLが歩いているし
競馬がテレビで映し出されてさえいる

こののっぺりした路地と建物が
僕を旅している

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虹(1999.8.24)


橋がある

その橋は光でできていて
だからもっと強い光の中では
透けてしまう

その橋を歩けるのは僕ではない
でも橋を歩くのは儚い人だともいえない

いったい垂線はどのあたりにある?
空からの垂線が届いている山のどのあたり?

それは
お話があるあたり
橋は光に透け
お話のかたまりが見えているところに
降りるから

垂線が貫く
橋は儚くはない

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境界(1998.10.20)


一枚の布をまとった僧が
僕のそばを通って
岩山に行くように見える
赤黒く日に焼けた僧の
一枚を
見る

僧が山を登る
薄い一枚
そこには赤黒い顔と
布の破れとが
フィルムのように
平面で
頭骨が
移動しているのを
岩に鳥の糞があるのを
斜に見る

向こう側の
その器に
錫のスプーンを右手で
斜に投げると
フィルムのなかの器に
スプーンは落ちていく

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透明な回廊(1996.9.3)


木の葉がぼろぼろになっていくようには
あちらへの回廊は変質しない
透明なガラスが
さらに透明になって
ついに水が通るように
回廊は変質する
たしかにガラス片を踏んで
肉体が曲がるころ
ところどころ甘い飴でできた回廊には
血の染みが
点々と着いた

でも木の葉のような染みは
途轍もなく透明になることによって
床は虹色の本当の菓子になる
ガラス片はザラメであったかのように
往くのである
車窓からの眺めが
網膜に映り続ける
同胞が甘受したところへ
往かせない
同胞が謎に思ったところへは
往かせない

私の身近な空へ
引き寄せてしまう
それができるのは
高速度で往ける透明度が
あなたにすでに保証されているから
私の空にかならず
引き寄せてしまう

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水盆を持つ男(2000.10.24)


騒いでいる町もある
行進している町も

いつまでも秋にならない
と思っているうちに
もう十一月か

ぼくは平らな
盆のようなものを抱えていて
水が薄く張ってあり
しずくが周りに
落ちないように
公園を歩いている

思いっきって沼で遊んで
なんかヘロヘロになって
紅葉を抜けると
けっこうしゃんとしている

向こうで女が
右方向からヘロヘロのぼくを見て
一瞬木々に隠れ
しゃんとして歩くのを見て
あれはなんだ
と思うだろう

芝生のベンチでタバコの煙が青に散るのを見る

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豊作(1998.4.21)


帰ってきたら
玄関にACアダプタが転がっている
下駄箱の上を見るとまたACアダプタがコードをまるめて置いてある
寝室のドアを開けようとするとACアダプタがひっかかる
洋服ダンスにはベルトの束といっしょにACアダプタがぶら下がっている
階段を上ると踊り場にACアダプタが黒い大きな虫のようだ
テーブルにはお茶とACアダプタがある
テレビを見ると上にACアダプタだ
机のある部屋を開けると床に7つACアダプタがまとめてある
机の上にACアダプタが当然のように主張している
本棚から文庫本をとろうとすると招き猫の左右にACアダプタがある
パソコンのスイッチをいれるとキーボードの上にACアダプタが置いてある
ケーブルを直そうとパソコンの後ろにACアダプタが3つある
ケーブルのあいだの
ファックス用紙には
発信番号匿名の
ACアダプタの写真がプリントされていて
そんなACアダプタが豊作な1日である

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鮫洲(2001.5.22)


浜にナマコが落ちている
そんなに
場末の海かなあ

たしかに鮫の肌はざらざら
南の雲は雨を孕んでいまにも
冷たい粒が落ちてきそうだけど

ぼくは若いころ
雑駁な旅をして
きみもいま
雑駁な旅をして
時はむくむくと
いろんな
黄色いものや
黒いものを
生やすね

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溶色(1999.2.23)


桃の花は
水がゆれるたびに
色を溶かす
花びらの雨というのは
どこか定型的な空だけど
たびたび見上げることになる

それは
齢が
祝われるのでも卑下されるのでもない
ほかい人が
筵の笠を持ってくるのでもなく
姫がお茶にくるのでもない

垣根のそばに一列に植えられた花桃の
幹にはゼリー状の樹液が
こごっている

その通路を越えて
右に雪柳を見ながら
等速度で
竹薮のほうに抜ける

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あぶな街(1999.2.9)


鯉の肌
電柱にサカナの旗
雲は這いずり
家々の紅い
トサカ

さびる自転車に
汚れたビラが貼りつく
白い絡まり
紅い鯉と巻きついて

電信柱の上で
ぼろぼろの布に
現れる
あぶな街

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官能小説家(2001.2.20)


植物の官能
っていうのは
花畑から飛ぶ花粉
もやもやと

水路に官能がある
裏道にひっそりと咲いた
雑草の花

あなたは官能の風景が
渇いたところに反照して
灰色に見えることはある?

ごちゃごちゃ花を取りまとめて
さまざまな模様

菌の
官能小説家

細菌学者は書けなくて
菌が
菌のいろんな
有機質の培地に
つくる

菌は言葉をもたないのか
というように
官能小説家は
納豆を食べる

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異本(1998.9.22)


蜻蛉の翅が
塔につづく脈をもつことを
確かめる
豆のさやが
4個の粒をざるに落とす

翅の脈が夕景と二重写しになって
虫の装飾の森を
つくり出す

豆のさやが
一つの黒い粒を