Oct 19, 2021

モー・アブランテスの肖像

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サラは買ってきた珈琲豆の
お裾分けに隣室のジェットを訪ねている。

どうしてそっちを向いてるの。
パソコン机の正面だからかな。


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ケイは珈琲豆を
挽き終わったところ。

モディリアーニの展覧会、
まだやってるのかな。
と骸骨はいった。


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展覧会会場では
マンスフィールドさんに
文学青年が尋ねている。

モー・アブランテスっていう
女性の肖像画について、
いろんな解説読んでて、気になるんですが。
うんうん。


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「女の胸像」(1908)

「モデルはその顔立ちから当時の恋人
モー・アブランテスとみられる。
宙を睨む眼差しは、画面の全体を彩る暗い青色の
効果とあいまって、世紀末のいわゆる
「ファム・ファタル(宿命の女)」に通じる
不穏な雰囲気を生み出している。」
(島本英明「もっと知りたいモディリアーニ」p7)


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「青いスカーフの女」(1907年頃)

「、、、パステルのようなニュアンスに富んだ
油彩表現は、トゥールーズ=ロートレックを
想起させる。」
(島本英明「もっと知りたいモディリアーニ」p7)


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「ほくろのある女の頭部」(1906−1907)

そしてこの肖像画。
これは、モディリアーニが
ポール・アレクサンドルに知り合い、
彼の家にもっていったというもののようですが、
「青いスカーフの女」に、よく似てますよね。

「アレクサンドルの家で催された
集まりにたびたび顔をだすように
なっていたモディリアーニは、
そこに自らの手でこの作品を持って行った。
このことからも、彼が本作に特別な
思い入れを抱いていたことが推測される。」
(マリー=クリスティーヌ・ドクローク
「モディリアーニ展カタログ」作品解説p26)


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「モー・アブランテス」(1907-1908年頃)

この肖像画の裏面には、
次の「帽子を被った裸婦」が描かれていたと。


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「帽子を被った裸婦」(1907-1908年頃)

解説には、
「このモデルは誰であるか分からないが、
1908年のサロン・デ・ザンデパンダンに
出品された「ユダヤの女」と同一人物である
ことは間違いない。」
(マリー=クリスティーヌ・ドクローク
「モディリアーニ展カタログ」作品解説p30)
とあります。


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「ユダヤの女」(1908)

ここまで見てきて、
これらの肖像画すべてが、モディリアーニが
モー・アブランテスを描いたものだと、
みなしていいのか、というのが疑問です。
個々の解説には、そうとは書かれていないけれど、
それと匂わすような感じで書かれている気もする。

見た印象では似ていても、
彼女を描いたものだという
確たる証拠がないと、作品の解説文では
そこまで言えないんじゃないかな。

モー・アブランテスについては、

「1907年の11月もしくは12月に
アンリ・ドゥーセは、デルタ通りの
アレクサンドルによる小さな「芸術コロニー」に
モディリアーニを招き入れたが、その時
モディリアーニに同伴していた女性が、
アブランテスであった。
 教養豊かな彼女は、デッサンをたしなみ、
詩の朗読や仮装パーティをして芸術家に
囲まれて日夜過ごすのを好んだ。
しかし1年後の1908年、不可解にも
アブランテスは突然彼らの元から姿を消した。
妊娠した彼女は「ラ・ロレーヌ」という
名の大型客船に乗って、
アメリカへ旅立っていたのであった。」
「モディリアーニ展カタログ」作品解説p30)

と、詳しく書いてあります。
でもモディリアーニの同時代人だった
アンドレ・サルモンの評伝には
まったく登場しないし、
ジャンヌ・モディリアニの評伝には
作品としての「ユダヤ人の女」
についてだけ触れられている。

「彼は非常にこの絵に愛着をもっていて、
この絵の各面の幾何学的構成や背景の
微妙な色調は、彼がセザンヌから学んだ
教訓を用いようとした彼独特の方法を
すでに示していた。」
(ジャンヌ・モディリアニ「モディリアニ 人と神話」p82)

ちなみに、キャロル・マンの評伝(原著は1980年刊)でも、
「ユダヤの女」という作品にしかふれられていないし、
「モー・アブランテス」という作品については
タイトルの末尾に?マークがついている。
評伝が執筆された段階では、特定できなかったのかも。

解説を比較すると、矛盾があるけど、
読者にはどっちが本当かわからない。

たとえば「帽子を被った裸婦」について、
「モディリアーニ展」(2008)のカタログでは、
この当初つけられたタイトルは、間違いで、
これは帽子ではなく、モデルの後ろに
モディリアーニが描き込んだ影である、
というポール・アレクサンドルの証言を
紹介しているんだけれど、
情報としては新しい筈の
「もっと知りたいモディリアーニ」
(2021年2月28日発行)の図版解説では、
作品タイトルが「モー・アブランテス、上半身像」
になっていて、アブランテスの肖像であることが、
特定されていて、
「鋭い描線で切り出されたかのような
裸体の輪郭に対し、アブランテスの
トレードマークというべき横長の帽子が
対照をなす。」って書いてあって、
こっちでは帽子説が採用されいる。

帽子なのか、影なのか。
なやましいところだね。


解説)
今回は、
気になっていた肖像画の人物と、
その解説について
紹介してみました。
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