Jul 26, 2024

ジャンに会う

a1

アイスとマークは席を立って
出発しようとしている。


a2

リリスの酒場の二階にあるドアからは、
魔術劇場にも、ジャンさんの家の倉庫にも行ける。
倉庫への通路は、最初にリリスが生み出したものね。

リリスって。

あ、リリスっていうのは、人形の精霊で、
リリスの酒場を経営してる。
この村のフラハさんのような魔術師よ。
村の出現には彼女の力も関わっているの。

またややこしいんですね。

マークにもリリスを紹介したかったんだけど、
酒場に姿が見えなかったわね。


a3

多分畑に出ているのよ。
アイスたちが来たことを伝えて、
ジャンの倉庫にいるって言ってくるわ。
とエルザが言った。


a4

あ、もう帰っちゃうんですか。
もっとお話聞きたかったのに。
などとブランカたちに言われている。


a5

また来るわよ。
みんな歓迎してくれてありがとう。
とアイスは言った。


a6

二人がリリスの酒場の二階から
鏡の扉を使ってジャンの家の倉庫に移動すると、
ちょうどジャンとナタリーがいて、
二人は収穫したトマトの仕分け作業をしていた。


a7

おや、アイス。
君がそのドアから現れるなんて、
どういう風の吹き回しかな。
とジャンが意外そうな顔をしている。


a8

実はジオラマの村に行ってたんです。
こちらは友人のマーク。


a9

初めまして、
僕はフィギアの精霊で。
とマークが言いかけると。


a91

ジャンはマークの顔を
まじまじと見つめた。


a92

おお。
いまフィギアの精霊だと言ったね。
僕は君を、というか、君の元になった
フィギアを随分探していたんだよ。

え、そうなんですか。


a93

その横顔の輪郭線。
眉間の皺。険しいような
困ったような表情。
やっぱりマーク大尉だ。

この人があれだったのね。
とナタリーも言った。



解説)
続きます。
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Jul 25, 2024

フィギアたちの村で

b1

ビールや食べ物が運ばれてきて、
3人の会話は盛り上がっている。

私たち、ここはドイツの片田舎の小さな村、
という認識だったの。
村を守備していたドイツ軍と、
進駐してきた私たち連合軍が争奪戦を
繰り広げていたというわけ。
でも人間の世界と関係ができて、
わかったことは、ここの風景が、
人間の世界のコピーだったこと。
ジャンっていう人が、
自分の庭に作ったジオラマの集落や、
周辺の自然がそっくりコピーされていたのよ。

ファンタジックな話だね。
ブラッドベリが好きそうな。
とマークが言った。


そればかりじゃない。
ジャンさんの庭で、ジャンさんたちが
フィギアを使っていろんな情景を
作ったり、情況を設定したりすると、
この村で似たようなことが起きて、
時にはその逆の場合もあって、二つの世界に
対応関係があるっていうこともわかった。

なんだかいつも通り、
ややこしくなってきたな。


b2

それって、迷いの森から
怪物がやってくる前のお話でしょう。
怪物をアイスさんが退治してくれてからは、
米軍とドイツ軍が協力し合うようになって、
この村は至って平和。
ジャンさんがご自分の家の庭で、
フィギアで戦争遊びをしても、この村で戦争は
起きなくなったっていう話よ。
と側で聞いていたクリスが言った。


b3

そうそう。
この村の住民も人間の世界に引っ越したりして、
パラレルだった二つの世界が融合した感じね。
とアイスが言った。

村人もだんだん少なくなって、
どうなるのかなあ。


b4

ブランカは隣のテーブルの同僚たちと
話している。

ぶ、物騒だなあ。
そんなの手に持って。

さっきまでこのルガーで、
ハンナと射撃訓練をしてたところなの。


b5

平和とはいえ、
いつ何時怪物が襲ってくるかもしれないからね。
パトロール行ってる?
今日はエルヴィンさんが出かけてる。
彼はジョーたちと人間たちの町に引っ越したけど、
今でも欠かさずパトロールには協力してくれているんだ。
流石にわがドイツ軍部隊の元リーダーだね。


b6

噂をしていると
エルヴィンを乗せたキューベルワーゲンが、
ビアガーデン前に停車した。


b7

やあ、アイスじゃないか。
珍しいな、君がこの村にくるなんて。
とエルヴィンが挨拶している。


b8

アイスはマークをエルヴィンに紹介して、
ここにきた事情もかいつまんで話した。

ふむ。
マークさんは、アフリカ戦線に従軍されていたのか。
私もアフリカでは随分と暴れたものだ。
どこかで遭遇してたかもしれないね。

もしあれが地続きの現実だったら、ですね。
エルヴィン・ロンメル将軍の武勇伝、
砂漠の狐の噂はよく聞きましたよ。

私は自分がフィギアの精霊で、
元になったのがそのロンメル将軍だと
知った時はショックだったな。
私にとってはこの世界の記憶が現実なんだから。

僕の元になったのはどんなフィギアなんだろう。
とマークが言った。

そのことだけどさマーク。
私、あなたの顔どこかでみた気がするって、
ずっと思ってたんだけど、
やっと思い出したわ。本の写真に載ってたのよ。
とアイスが言った。


b9

マークとエルザは驚いている。

その本、ジャンさんの家で見たのも思い出した。
これからジャンさんに会いに行こう。

人間の世界とこちらの世界との最初の接点は、
ジャンさんの家にある倉庫のドアだったの。
フィギア好きのジャンさんはキーパーソンね。
あの本持ってたんだから、
きっとマークのことを知ってるわよ。



解説)
続きます。
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Jul 24, 2024

フィギアたちの村へ

a1

魔術劇場の中の鏡の扉から
フィギアたちの住む村の
リリスの酒場の二階に移動した
マークとアイスとエルザは、
酒場を出てエルザに案内されて村を見て回った。

3人は酒場の前の
ビアガーデンのようなところに
やってきた。


a2

クリス、ビールお代わり。
と客らしき兵士が言っている。


a3

アイスは、クリスと呼ばれた女性が、
リリスの酒場のカウンターで
バーテンダーをしていたのを
思い出した。


a4

近くにいた女性兵士たち、
ブランカとハンナが、
アイスたちに気がついたようだ。


a5

やあエルザ。
それにアイスさんが来るなんて珍しいわね。
とブランカが言った。

お会いできてうれしいわ。
とハンナが言った。
アイスさんはこの村の英雄ですから。
お連れの方は?


a6

ああ、この人はマーク。
あなたたちと同じフィギアの精霊よ。
私の友人で今日は村の見学に来たの。


a7

椅子席に座ったエルザは
さっそくクリスにビールを注文している。
いつもの大ジョッキを三つね。
あと食べ物は適当に。

了解。


a8

マーク、村の感じはどうだった?
とアイスが訊いている。

僕たちの集落と同じくらいの規模かな。
でも住民がフィギアの精霊ばかりなんて驚きだね。
軍装の人ばかりで、戦時中だった
前の世界を思い出したよ。

ブランカたちが
興味深そうに立ち聞きしている。


a9

マークさん。
戦地はどこだったんですか?
と、
好奇心を抑えきれずにブランカが尋ねた。

あ、アフリカ戦線でしたよ。
砂漠を転戦していたんです。


a91

マークはね、
この人間の世界に来てからも、
アフリカに住んでいて、ジャングルの中に
自分たちの集落を開拓したのよ。
とアイスが言った。

すごい方なのね。
行ってみたいわ。
などと話が盛り上がっている。



解説)
続きます。
Posted at 20:28 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 23, 2024

ソフトクリーム

a1

久しぶりにサラたちの部屋。


a2

今日も暑いね。
てるてる坊主そろそろ片付けたら?
昨日の夜は雷雨があって停電したでしょう。
まだ必要なのよ。


a3

部屋にはレイチェルが来ていて、
ペンギンで使っていた古いエスプレッソメーカーを、
ソフトクリームメーカーに改造していた。


a4

これでもうすぐ完成よ。
だけどよくこんなこと思いついたわね。


a5

毎日暑いからね。
改造できないかなと思ってたら、
あなたがロボット学者だったこと
思い出したの。


a6

オセロは無心でバナナを食べている。


a7

みんな注目している。
ソフトクリームミックスを入れて、
そのスイッチを押せばいいのよ。
あ、コーンカップを忘れないで。


a8

なんとソフトクリームが
出来上がった。


a9

サラとレイチェルは
早速ソフトクリームを舐めている。
あま。


a91

実験成功。
実験だったのか。


a92

ねえ、頭蓋骨のお父さん。
この前佳奈がきて、
ウィヴィアンがフミコっていう人を
頭蓋骨から魔法で蘇生させたって言ってたわよ。
お父さんもやってもらったら?
とメアリー=ケイトが言っている。


a93

僕たちはこのままでいいんです。
この姿で蘇ったんですから。
と元人体の骨格標本だったジェイソンが言った。
机の下でメメもメーメーと言っている。



解説)
今回は思いつきで、見た目だけの
ソフトクリームメーカーの簡単工作。
ベースにぷちサンプルシリーズ「ぷちかわキッチン」の
「2、うれしいプレゼント」の
エスプレッソメーカーを使用しています。
パーツを二つに分離して、
間にスチロール板で作った箱状の枠を繋いで
アルミ箔のテープを巻いて高さを出しました。

ソフトクリームは主にアゾンで買ったバラ売りを使っています。
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Jul 22, 2024

マークを案内する

a1

アイスとマークが
魔法劇場を出ると、
広場は割と閑散としていた。
毎日暑いのでみんな家に篭りがちのようだ。


a2

マークじゃない?
と佳奈が言っている。
やあ佳奈。

鏡の扉を使って
アフリカから直行で来たのよ。
とアイスが言っている。


a3

こっちはマーク。
あっちはルビー。
一緒にベーカリーを経営してる
CGの仲間で私の相棒よ。
とアイスがルビーを紹介している。

佳奈から色々聞いてるわ。
どうぞよろしく。


a4

マークはフィギアの精霊なの。
誰かジャンのジオラマの村の人、
広場に来てないかなあ。

さっきジョー軍曹とエルザを
見かけたけど。


a5

ジョー軍曹とエルザは
マンゴー亭で肉まんを食べていた。


a6

また涼しそうなのに着替えたのね。
夏はこういうのが一番。
とアンナが言っている。


a7

やあ、ジョー、エルザ。
君たちに紹介したい人がいるんだ。
こちらはマーク。
君たちと同じように
かっては戦時中の世界で暮らしていた
フィギアの精霊だよ。


a8

それは珍しいですね。
魔族のヴィヴイアンやハリーが
フィギアや動物の精霊を、
魔法で人間の姿にしてしまうのは、
何度も見ていますが、あなたも?


a9

いや、そんなことのできる
魔族の存在を知ったのは
この世界に来てからのことです。
僕はてっきり自分が人間だと思い込んでいたので、
いまだに自分がどんなフィギアだったのかさえ
知らないんです。


a91

私たちもみんなそうでしたよ。
僕らがいたのはヨーロッパ戦線で、
小さな村をドイツ軍から守る部隊の軍曹だったんですが、
こちらの世界と接触があってから、
真相がわかってきたんです。
今はこんな格好していますが、
ずっと軍服姿で、なぜか、こんな
ドッグタグを身につけていたんです。

ジュー軍曹が取り出してみせたドッグタグには、
GIジョーと刻まれていた。


a92

私はエルザ。
戦地ではジョーの部下だったの。
戦場だった村は怪物に襲われたのがきっかけで、
アメリカ軍とドイツ軍が協力するようになり、
今では平和に共存して、
不意の怪物の襲来に備えながら暮らしている。
ルーマニアにある別の世界に行った人たちや、
私たちみたいにこの町に移住した人も多くて、
村人の数は減少気味だけど、
私たちの故郷であることに変わりないの。
私がご案内するわ。


a93

マンゴー亭の従業員の
アンナとレイはそばで話を聞いていた。

フィギアの精霊の人たちって、
私たち人間とどこが違うのか、
よくわからないけど、
故郷があるっていいわね。



解説)
続きます。
Posted at 20:30 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 21, 2024

町に帰る

a1

魔術劇場の応接間で
ハリーとヴィヴィアンとマリアが寛いでいると、
鏡の扉が現れ、
鏡の中からアイスが姿を現した。
続いてマークとフミコも出てきた。


a2

おや、お戻りね。
今あなたたちの噂をしていたところよ。
そちらの方は新しいお客様かしら。
とヴィヴィアンがいった。


a3

あ、僕はマークといいます。
アフリカのジャングルの奥地で
小さな集落の長をしています。

マークはフィギアの精霊なの。
ジャンのジオラマの村の、
人たちと同じ身の上みたいなので、
彼らに一度に会ってみたらって私が誘ったのよ。
とアイスが言った。


a4

なるほど。
私はこの館の当主のハリーで、
隣にいるのが娘のヴィヴィアン。
後ろに立っているのが姪のマリアです。
はるばる魔術劇場にようこそ。

はるばるって言っても鏡の扉を使えば、
一瞬でしょう。
ねえ最初にアイスが出てきたっていうことは、
まさか、アイスが魔法を使ったの?
とヴィヴィアンが言った。

そのまさかなの。
私、フミコに呪力を授けてもらっちゃった。


a5

一行は、運ばれてきた
料理に舌鼓を打っている。

魔法陣の上に建てられた、
この館の中なら別だけど、
どこでも鏡の扉が作れるなんてすごいわ。
私なんて同じ魔族なのに、黒猫に変身することと、
箒に乗って空を飛ぶことしかできないのよ。
とマリアが言った。

どちらも楽しそうね。
魔族はみんな特技を持って生まれてくる。
それは今も変わらないのかしら。


a6

変わらないわよ。
でも今では数も少なくなってね。
魔族でも魔法を使わない人たちもいるし、
自分が魔族だって知らない人もいる。
私、親戚以外の魔族の人に会ったのって久しぶり。
あ、犬猫同盟の集まりがあるから行かなくちゃ。
また今度お話ししましょう。
そういうと、マリアは出かけて行った。


a7

入れ替わりのように、
出現した鏡の扉から女性が現れた。


a8

あら、みなさん賑やかなこと。
私はハリーの妻のカーミラと言います。

あなたが話題のフミコさんね。
お部屋を用意してあるから、
いつでもご案内するわ。


a9

ありがとうございます。
早速ご厚意に甘えようかな。
なんだか蘇ってから
あちこち移動したせいか
ちょっと疲れちゃって。


a91

アイス、その素敵な指輪どうしたの?
とヴィヴィアンが聞いた。

フミコが、肩飾りの宝石を外して
作ってくれたのよ。
はめていると呪力が亢進するんだって。


a92

寝室もあるから
ゆっくりお休みになるといいわ。
ありがとうございます。
お言葉に甘えて。

二人は部屋を出て行った。


a93

私たちは
誰かジオラマ村出身の人がいないか、
広場に探しに行ってみるわ。
とアイスが言った。

ジオラマの村への鏡の扉は
魔術劇場の中からね。
呪文は彼らが知ってるから。
とヴィヴィアンが言った。

ありがとう。
ヴィヴィアン、さっき話した通り、
私どこでも鏡の扉を作れるのよ。もちろん、
その力は無闇に使わないつもりだけど。
では、ハリーさん、失礼します。

そう言って軽く会釈すると、
アイスとマークは部屋を出て行った。


a94

二人だけになった。

アイスのはめていた指輪って。

うん俗にいう魔法使いの指輪として
魔族の間では知られているものだな。
生前フミコがいくつか作ったものが、
ずっと伝わっていたのかもしれない。

それにしてもフミコが呪力を授けたのが、
アイスでよかったよ。
もしお前みたいなお転婆娘に授けていたら。

これからどうなるか
わからないでしょ。
そりゃそうだな。



解説)
続きます。
Posted at 20:26 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 20, 2024

フミコの帰郷 そのろく

a1

それにしても、
アイスが早く戻ってきたので驚いたよ。
ジャングルだけでも大変なのに、
そのうえ砂漠を超えて、
飛行機ではるばる海を越えて、
アイスの住む国まで、
急いでも片道で2、3日はかかるだろう。
とクラウドが言った。

フミコの魔法で一瞬で来たのよ。

そんなことが可能なの?

私にはわかるぞ。
リンリンから聞いたことがある。
古代の魔族は魔法で鏡の扉を出現させて
自由に遠方と行き来していたという。
グリューンも使えると言っていた。
とハンスが言った。

そういうことなのよ。
私の住む町にもフラハのような魔族の人たちがいてね。
その一家の娘さんがフミコを蘇生してくれたうえに、
一家の住む魔術劇場っていう館に
フミコは同居させてもらえることになったの。
私は故郷の様子が知りたいというフミコに便乗して、
蘇生が無事に成功したことを
みんなにお知らせしたくて来たんだけど、
あとはマークに会って帰るつもり。
とアイスが言った。


a2

フミコの蘇生が無事に成功したことは、
アーネストやアンドレアにも伝えておくわ。
またいつでも遊びにきてね。
というリンたちに見送られて、
アイスとフミコはクラウドの家を後にした。

マークっていう人は
この集落のリーダーだって言ってたわね。
そうなの。
あなたが無事に蘇生したら
あなたを案内してこの集落に戻ってくるから、
その時また会えるってマークに言ってあったの。
こんなに早くそんな機会が来るとは
思ってなかったけど。


a3

二人はマークの家に向かっていた。

マークはね。
あなたと同じように蘇生した人。
あ、それは全然違うかな。
マークは人間じゃなくて、
6分の1サイズのアクションフィギアの精霊なのよ。
でもずっと自分が人間だと思い込んでいた。
彼は戦争中に兵士として活動していたんだけど、
砂漠で嵐に巻き込まれて、そこを抜け出したら、
戦争がとっくに終わった未来であるような、
この世界に来ていたという。
でもマークが最初に生きていたのは、
誰かの想像が産んだフィギアの精霊たちの世界で、
あなたのように、同じこの世界の過去から
未来に蘇ったというわけじゃなかった。
だからこの世界に馴染めなくて、
ジャングルの奥地に集落を開いたんだけど、
リーダーのくせに寂しがり屋なの。

誰が考えたのかややこしすぎる話ね。


a4

マークの家に着くと、
クラウドの家で見かけたアマンダが
すでに庭仕事の手伝いに来ていた。
庭で草むしりをしていたマークが
気がついて近づいてきた。

アイス。驚いたな。
三日前に帰ったばかりだと思ったら、
何か途中でトラブルがあって
戻って来たのかい。

いいえ。無事に帰国して、
蘇生の呪術に成功したことを伝えに来たのよ。
この人がフミコ。


a5

アイスたちが移動に使った
鏡の扉の説明をすると、話題は
どうしてもその話になった。

鏡の扉と違って、
マークが体験した砂嵐は幽冥界との通路で、
魔法では生み出せないって、
フラウが言っていたけど。

それはその通りね。
誰でも死ぬことはできても、
自分だけの意思で戻って来れるような便利な扉はない。
鏡の扉で行けるのは現実に繋がっている別の場所や
命あるものたちの夢や想像、呪力で作られた異世界。
似ているようで全く別のことなの。

砂嵐の前にいた世界のことは、
もうあまり思い出すこともないけど、
僕はそこで第二次世界大戦の
アフリカ戦線に従軍していた兵士だったんだ。
アイスがよく似た戦争中の異世界に行ったことがあって、
そこではフィギアたちの精霊が暮らしていたというので、
初めて自分もフィギアの精霊だったことを知った。
とマークが言った。


a6

最初は自分が砂漠で戦死して、あの世にいき、
何かの計らいか偶然で、フミコみたいに未来の世界に
蘇ったんだとばかり思っていたけれど、
フラウにも最初からフィギアの精霊だと
わかっていたと言われてちょっとショックだったな。
今はもう昔のことは関係ないけどね。

戦時中だった世界が懐かしくならない?

まあ、ごくたまにはね。

だったら私の知っている、
フィギアの精霊たちの村に案内してあげられるわよ。
前にも言ったように、
私の住む町にいる魔族一家の館には、
彼らの暮らす世界に行ける鏡の扉があるの。
今ではその扉を使って村の住人たちの何人かは、
私たちの町に移り住んでいるわ。

アイス。
そんな面倒なことをしなくても
あなたの呪力で鏡の扉を生み出せば、
直接ここからその村に行けるのよ。

え。

でもまあ手順を踏んだほうがいいわね。
ひとまず魔術劇場のある町に戻って、
その村の人にマークを紹介して
承諾してもらってからのほうがいい。

私の生きていた頃には、
6分の1サイズのアクションフィギアなんてなかったけど、
木や土の人形に宿った精霊たちとはよく遊んだりした。
彼らを憶う人々の願いと彼らの願いが重なって、
そこに意志を持ったものの呪力が加わると
小さな夢のような共同の世界が生まれることがある。
そういう世界はうたかたのように
とても繊細で壊れやすいものなの。
不意の来訪者には拒絶反応を示すこともある。

そうなのね。


a7

アイスが魔術劇場を思い浮かべて
脳裏に浮かんだ言葉を口にすると、
部屋の中に鏡の扉が現れた。

マークさん、
私もアイスの住む町で 
いろんな人に出会うのが楽しみ。
あなたもいらっしゃる?

う、うん。
もちろん。
その前に庭仕事を手伝ってくれている
アマンダに留守番を頼んでくるよ。
この集落には泥棒なんていないけど、
猿が来て時々悪戯するんだ。


a8

マークはアマンダに訳を話して
留守番を頼んでいる。
貴重品は何もないけど、
大きな鳥の羽根だけが気がかりなんだ。

いいわよ。鏡の扉を使って行くなんて
フラウが聞いたらきっと羨ましがるわね。


a9

かくてアイスたちは
魔術劇場に戻って行った。
グリーンマンが
ちょっと悩ましそうな顔をして
その動きをじっと眺めている。



解説)
続きます
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Jul 19, 2024

フミコの帰郷 そのご

a1

コーヒーを飲んでいたフラハは、
裏庭に突然鏡の扉が出現したので驚いている。


a2

扉からは、アイスが、
知らない女性を連れて現れた。

君は先日マークと一緒に来た
アイス君だったな。
呪力がさっぱりだった君が
鏡の扉を使ったのか?

あ、まあそのようです。
あちらの女性はフミコよ。
この前の頭蓋骨、無事に蘇生に成功したの。


a3

フラハとアイスは
冗談のような挨拶を交わしている。

あなたがフラハさんね。
私の蘇生を試みてくださった方だと
アイスから伺いました。
私はフミコ、その昔魔族の都で
暮らしていました。

おお、伝承どうりだったわけか。

突然驚かせて悪かったけれど、
フミコの蘇生を気にかけてくれていた皆さんに、
特にハンスさんに早く伝えたくて、
この集落に戻ってきたの。
とアイスが言った。


a4

鏡の扉には出現させる呪文と、
移動するための呪文があるんだったな。
魔術の書があれば私にも可能なんだが。

魔術の書。私もハリーさんの魔術劇場で、
拝見しました。
でも私が生きていたのは、
その書物が編纂されるずっと前のこと。
呪力のある人はみんな自分で呪文を生み出す
力を持っていたのよ。

そうかハリーに会ったのか。
蘇生の呪文を唱えたのはやはりあいつだったか。

そうじゃなくて、フミコを蘇生させたのは、
私が言ってたハリーの娘のヴィヴィアンっていう悪魔。
とアイスが言った。
そうだ、フミコの蘇生って言えば
そのことをハンスさんたちに伝えにきたんだった。
そろそろ行かないと。


a5

ということで、
アイスとフミコはフラハの家を後にした。

フラハさん、ずいぶん鏡の扉にこだわっていたわね。
どこでも扉を生み出すことができれば便利でしょう。
今のあなたにはそれが可能なのよ。
でも無闇に使うべきじゃない。
鏡の扉に頼りすぎると肥り過ぎたりして
悲惨なことになるわ。
健康のために歩きましょう。


a6

二人はクラウドの家のまえにたどり着いた。
みんないるかなあ。


a7

アイスがあまりにも早く
戻ってきたので、
みんな何があったのかと驚いていたが、
魔術で蘇生したフミコが一緒にいるとを聞くと、
最初の驚きは別の驚きに変わっていった。


a8

お父さん、これで心置きなく
リンリンに会いに行けるわね。

うん。グリューンとの約束が果たせたことになるからな。
グリューンはもうフミコさんに会って、
知っているんだろうけど。
あ、グリューンっていうのは
グリーンマンのことですよ。
フミコさん、グリューンは元気でしたか?

ええ、今たぶんその辺にいると思いますわ。
とフミコは言った。


a9

なんとグリーンマンは、
ジャングルの茂みから姿を現した。
ハンスを見つめて
喜んでいるようにも見ようと思えば見える。

なんとあんなところに。

私たちについてきたんです。
そういうとフミコは、
何やらグリーマンに聞こえない声で
話しかけている。


a91

しばらくしてグリーンマンの姿は
ジャングルの中に消えていた。

何を話していたんです?

茂みから私たちの様子を見ていて、
ハンスさんがいるのに気がついて、
思わず顔を出したらしいわ。
ハンスさんが蘇生したことは、
リンリンから聞いて知ってたって。

シーザーがリンリンに
伝えてくれたんだわ。
とアイスが言った。

ハンスさん、
あなたが約束を守ってくれたことを、
すごく喜んでいましたよ。
リンリンも会いたがっているって。

そ、そうでしたか。

ずっと私たちについていきたいけど、
遺跡からあまり離れると
遺跡やジャングルを守れなくなる。
とも言ってた。
あなたはもう自由なんだから、
好きにしていいのよ。
って言っておいたわ。
あれで結構悩んでいるのよ。

複雑なストーカー心理なのね。
とアイスが言った。



解説)
続きます。
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Jul 18, 2024

フミコの帰郷 そのよん

a1

二人が月の扉のある部屋に戻ると、
リザードがまっていた。

おお、フミコ、蘇ったのだな。
ここの月の扉が使われたので、
もしやと思ってきてみたら、
やはりお前だったか。

リザード、本当に久しぶりね。
あなたが魔族の蘇生の呪文を
アイスに教えてくれたおかげで、
蘇ることができたの。
感謝してるわ。


a2

大昔の仲間内の戦争の結果、
というか、正確にはお前が死んでからのことだが、
我々レプテュリアンはむやみに人間と
接触してはならないという決まりになったんだ。
戦争が起きたのも、我々だけが
魔族と接触して文化を分かち合い、
仲間の嫉妬を買ったしまったのが原因だったからな。
ここの再興計画が中断したのもそのせいで、
魔族の協力が得られなくなったのでね。

だから人間に我々が記録した魔族の
呪文を教えるのは協定違反だったんだが、
あのグリーンマンの身の上が哀れでね。
再会を果たして自由にしてやったかい。

フミコはアイスにも話した
グリーンマンや動物たちとのやりとりを、
リザードにも伝えた。


a3

なんとそんなことを言ったか。
お前のかけた魔法が強力すぎたのかもしれないな。
はは冗談だよ。
彼らが遺跡とその周辺を
これからも守ってくれるのは
我々にとっても好都合だ。

私が蘇ったことをお仲間に知らせたの?

いや知らせるつもりもないよ。
知らせても、再生を繰り返して
生き継いでいる仲間も少なくなり、
お前の強大な呪力のことを覚えているものは、
もうほとんどいないだろう。

私はたまたまジャングルにリクガメ探しにきて、
知り合ったチンパンジーのリンリンに
何度かここの遺跡にまつわる昔語りをしていて、
お前のことをよく覚えていただけだ。
そうしたらグリーンマンの、お前を慕う、
哀れな話を聞いたのだよ。

あなたたちのリクガメ収集の趣味は変わってないのね。
とフミコが言った。

そうなんだ。
あ、そろそろおやつの時間なので
失礼するよ。
とリザードは言った。


a4

あっという間に行っちゃったわね。
レプティリアンって、
1日に何回おやつを食べるのかな。

ねえフミコ、もしできたら、
私、あなたの蘇生が成功したことを、
一緒にいった人たちにも教えてあげたいんだけど。
みんなどうなったか気にしていると思うの。

アイスはフミコより先に蘇ったハンスが、
特に気にかけていたことをかいつまんで話した。

鏡の扉を使ったらマークの集落にも行けるの?
とアイスが言った。

場所が特定できれば、どこにでも行けるわよ。
それはどのあたりにあるの?
この上にある集落の遺跡から
谷の渓流を越えてジャングルの斜面を登って
半日くらいの距離にある。

私が生きていた頃には、
都の近くにそんな集落なんてなかったわ。

マークっていう人が開拓したんだって。
それでマークの集落ってみんな呼んでる。
そこにはフラハっていう魔族の魔術師も住んでるの。
フラハは、あなたを甦らそうとしてくれた人よ。
呪力不足で頭蓋骨が震えただけで、
うまくいかなかったけれど。

ああ、なんとなく思い出した。
魔族の人だったら、
鏡の扉のことも知っているから
驚くこともないでしょう。
その人の家に行きましょう。

その前に、色々お世話になった
あなたに呪力を授けるから。


a5

そういうと、
フミコは持っていた肩飾りを手に取って、
肩飾りに嵌め込まれていた一粒の宝石を外し、
呪文を唱えた。

するとその宝石の嵌め込まれた
金の指輪が出現した。

これは私とグリーンマンからの
感謝の気持ちとして受け取って。


a6

フミコはアイスに向かって
呪文を唱えてから言った。

私は今、あなたに呪力を授けたの。
この指輪はあなたの呪力を昂めてくれる。


a7

どの指にはめればいいの?

右手の中指がいいのよ。
指輪には他にも効力があるけど、
それははめているとわかるわ。


a8

じゃあ、出発しましょう。
そのフラハの家の様子を思い浮かべて。
そして浮かんできた言葉を唱えるのよ。


a9

アイスが言われた通り、
フラハの家を思い浮かべて
脳裏に浮かんできた言葉を唱えると、
部屋の中に鏡の扉が出現した。
扉は中空に浮かんでいる。

こんなことが。

レプテュリアンの月の扉を使うと、
またリザードに迷惑かけるから。

彼らの月の扉や光の石は
たいてい固定された装置のようなもので、
マニュアルにある呪文で行き来するの。
魔族に伝わる鏡の扉は、
そういう使い方もできるし、
その都度出現させることもできる。
コツを覚えれば簡単で
ずっと便利よ。



解説)
続きます。
Posted at 20:25 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 17, 2024

フミコの帰郷 そのさん

a1

これでみんな見て回ったわ。
あとは地底の都の跡ね。


a2,jpg

二人は前にアイスがリザードと会話した
廃墟の一室に出た。

ここに出られるんだ。
彼らの月の扉を使ったの?

そうなの。
ここに来るためにリザードたちが
使っていた扉があったのを思い出したの。
今唱えたのは彼らの呪文よ。


a3

二人は回廊を歩いていく。

こんなふうに普通に呼吸できる空間を
少しずつ広げていく計画だったんだけど、
ここは私が死ぬ前とあまり変わっていない。


a4

あそこから外の様子を
見られるはず。
とフミコは言った。


a5

これを映し出しているのは、
私たちの魔法じゃなくて
リザードたちの技術。
彼らは水中が苦手だから。


a6

すっかり水草に覆われているけど、
華やかな都だったのよ。


a7

あ、マービーだ。
とアイスが言った。

マービーって、あの生き物のこと?

ええ。マービーはグリーンマンみたいに、
ここで誕生した変異種じゃないかって、
リザードが言っていたわ。
マービーが生まれたのは、
あなたが亡くなって後のことだって。
でもいつもここで何をしてるのか、
リザードもよく知らないって言ってたわよ。


a8

ここでは都の一部を再興するために、
リザードたちと協力して
魔法を相当使ったから、そのせいで
生まれたんでしょうね。
誰かが住んでくれれば嬉しいわ。
とフミコは言った。

マービーは姿を見られていることに
気が付かずに遠ざかっていった。


a9

水底にはマービーがゴルゴーって呼んでた
タコと魚のキメラみたいな
生き物もいたわよ。

ふーん。
長い歳月の間に私の知らないことが
色々と起きていたのね。

ジャングルには、
リンリンやシーザーっていう、
知能が進化した動物たちも生まれているの。



解説)
続きます。
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Jul 16, 2024

フミコの帰郷 そのに

a1

鏡の扉を抜けると、
そこは山の遺跡の中の広場だった。

ここに水盤があるね。
この側の石畳の下に
私たちより前に来たハンスっていう探検家が、
フミコのお墓の副葬品を集めて
隠してあるって聞いたよ。

ええ、さっき肩飾りを受け取ったとき、
グリーンマンも言ってたわ。
そんなことも話してたんだ。
彼はああみえて結構お利口さんなのよ。


a2

ここはね。
山の上にあって気候がいいから、
避暑地になっていたの。
山頂の展望台とも近いし。
展望台って、ストーンサークルのことかな。

そこには展望台って呼ばれる施設があって、
周囲の巨石群は、空から都を訪れる人たちのための、
目印になったりしていた。
でも戦争の時に徹底的に破壊された。

二人は建物の中に入っていく。


a3

確かに風が通り抜けて見晴らしも良くて、
気持ちがいいところね。
そうでしょう。
ここで友達とおしゃべりしたり
お昼寝するのが最高だった。


a4

ところでさっき
グリーンマンと話してたのはね。
とフミコが言った。

「あなたは長い間、ここが廃墟になってからも、
いつか私が蘇ることを信じて、
ずっとこの土地を守っていてくれたけれど、
もうそれも終わり。
私は私が死んだ後も、残された人たちが
安全に暮らせるように、あなたや動物たちに
この土地を守るように魔法をかけた。
でも長い歳月が流れ、住む人はもう誰もいない。
あなたは充分立派に役目を果たしてくれた。
もう自由になれるように魔法を解いてあげる」
って、私が言ったの。
そうしたらグリーンマンはちょっと考え込んでから、
これまで通りでいいって言ったのよ。

彼のいうのには、
何百年かに一度は、昔ここに住んでいた
人の子孫がこの遺跡を訪れることがあって、
伝承の記憶をよすがに、
都のいにしえの栄華を偲んでいくそうなの。
自分ではもう先祖の過去も知らずに
導かれるように来る人もいるという。
その人にとって、そんな体験は
一生に一度きりのことかもしれない。
でもその一度きりの体験の記憶が、
世代を超えて蘇り、繰り返されているんだと。
そんな魔族の末裔の訪問が絶えるまで、
この土地を守り続けたいというのよ。

その気持ちは嬉しいけど、
って私が言いかけたら、
いつの間にか周りに寄ってきていた動物たちが、
そうだそうだって言い出しちゃって。
私泣きそうになって、
わかったわかったって言って
逃げてきたの。


a5

ここは広場。子供がよく走って
よそ見してつまづいて転んで泣いてたわ。


a6

まるで別の星で見た記憶のように、
鮮やかに蘇る。


a7

あんなところにグリーンマンが。
彼はこの土地の中ならどこにでも
鏡の扉を出現させることができるから、
ああやってついてくるのよ。
次は祭壇のある湖の洞窟に行きましょう。


a8

ここの扉は特別なの?
ここだけは光る石でできてるの。
リザードたちの月の扉と同じ
仕組みが残っている。
彼らと一緒に暮らしていた頃の名残よ。


a9

ラッセルたちから話は聞いてたけど、
ここはすごいな。
魔族たちはこの土地に来て、
最初はこの洞窟に住んだと言われてる。
横穴式の住居跡があるはずよ。


a91

ここは私の墓所。
元は別世界に旅立つ人たちのための
特別な鏡の扉が置かれた祭壇だったの。
そんな場所にみんなで私を葬ってくれた。

グリーンマンがまた来てるわよ。
こっちにくればいいのに。
ああしてついてきて
覗いてみてるのが好きなのよ。
しょうもないやつなのね。



解説)
続きます。
Posted at 20:23 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 15, 2024

フミコの帰郷

a1

鏡の扉が現れたのは、
集落の遺跡の建物の中だった。


a2

鏡をすり抜けてフミコが姿を現した。


a3

続いてアイスもやってきた。
ああ、こんなふうに変わり果てて。
とフミコが言っている。


a4

ジャングルの眺めは変わらない。


a5

あそこの石畳が動いて、
地下へ降りる階段が開いたんだけど。
ええ、その仕掛け覚えてるわ。
戦さの前には仕掛けはなくて、
誰でも自由に降りていけたの。


a6

二人は集落の遺跡の外に出て、
遺跡前の広場を歩いている。

ここには賑やかな市が立ったの。
魔族以外の人たちとの交易も盛んだった。

この城塞都市みたいな造りはどうして。
最初は他の部族からの攻撃を防ぐためだった。
でもこんな風にしたのは、むしろ権威付のためよ。
この牢固で神聖そうな壁のおかげで、
地上での争いはほとんどなくなった。


a7

ちょっとだけ一人にしてね。
と言ってフミコは広場に佇んでいた。
はるか昔を思い出しているようだ。


a8

やがてジャングルの茂みから
グリーンマンが姿を現した。
嬉しそうな顔をしているようにも
見ようと思えば見える。


a9

フミコも気がついて
グリーンマンに近づいていった。
グリーンマンはバッグから
肩飾りを取り出して、
フミコに差し出している。

二人は声に出さない会話をしていた。
グリーンマンの顔には
やはり嬉しさが滲み出ている気がする。


a91

私の頭蓋骨を受け取ってくれて、
魔術師を見つけて私を蘇らせてくれたあなたに、
お礼を言いたいって言ってる。

お礼なんて。
まあよかったよかった。
と照れながらアイスは言った。


a92

やがて周りに動物たちが集まってきた。
フミコはかなり長い間、
アイスには聞き取れない会話をしていた。


a93

二人は鏡の扉のある建物に戻った。

アイスは他の遺跡は見たの?
調査隊は三つのグループに分かれて別行動したからね。
私が見たのはこの集落跡と地下の都だけ。
だったらこれから見てまわりましょう。
どんな様子か知りたいの。
と肩飾りを外したフミコが言った。

うん。ところでさっき
何話してたの?
色々とね。あとで話すわ。



解説)
続きます。
Posted at 20:25 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 14, 2024

フミコとの対話

a1

魔術劇場では
4人が応接室でくつろいでいた。


a2

どうです。その魔術書を読まれた感想は。
出版されたのは随分昔で、
古いものと聞くが。


a3

私からすれば新情報が盛り沢山です。
特に黒表紙の本は薬草のことで為になるわ。
赤い表紙の本はほとんど既知の呪文ばかり。
でもこんなマニュアルがあると便利ですね。
私たちは文字を持たなかったから。

でもすらすらお読みになって。

読むというより感じとるんです。


a4

カメ新聞か。
これ見るの久しぶり。
去年の一月以来かしら。
レプテュリアンが地底世界や
月の裏側で発行している新聞だって、
そのとき管理局のミラが言ってたけど、
私は彼らには直接会ったことがない。
フミコは昔仲良くしてたんでしょう。

いい人たちですよ。
特に私たちと交流していた人たちは。

新聞に書き写してある蘇生の呪文は、
水没した都でリザードが教えてくれたのよ。
彼らは魔族の呪文を聞き取って記録保存していたの。
とアイスが言った。

あなたは地下の都まで行ったのね。
水没した都の一部の再建を、彼らと協力してやっていたの。
私はその途中で死んじゃったんですけど、
あれがどうなったのか。


a5

フミコは立ち上がると、
さっと手を振って、短く呪文を唱えた。

するとそこに扉が現れた。

a6

この館は魔法陣の上に建てられているんですね。
魔法の効力が素晴らしいわ。
この扉は今、私の故郷の集落の跡と繋がっています。
そこに行っても、もう人は誰もいないことはわかっていますが、
そこに私の帰りをずっと待っているものがいるんです。
彼に私が蘇ったことを知らせに行ってきます。


a7

なるほど、お見事な呪文ですな。
鏡の扉は、この魔術劇場の中では、
各部屋の出入り口にも使っています。
あなた専用の部屋もすぐ用意しますから、
お戻りになったら是非自由にお使いください。

重ね重ね、ありがとうございます。
今の私に人間の知り合いはあなた方だけ。
必要なことを済ませたら、
また戻ってきて、お世話になりますわ。
その節はどうぞよろしく。


a8

私も一緒に行っていい?
もちろんよアイス。
こんなふうに呪文を呟いて。

二人は鏡の扉の中に消えていった。


a9

お前、とんでもない人を蘇らせたな。
そうなの?
あの人の特別な能力は、
多分生き物全般に呪力を授けることができることだ。
それって変わった能力なの?
魔族というのは魔法が使えるだけで
体は普通の人間とかわらないだろう。
彼女は普通の人間にも呪力を与えて、
魔族と同等の力を持つようにしてしまえるのさ。
ふーん、そのどこが凄いのか、
いまいちよくわからないけど。
まあいいさ。
くれぐれも仲良くやってくれよ。
喧嘩する理由なんてないよ。
いい人みたいだし。



解説)
続きます。
Posted at 20:29 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 13, 2024

新たな出会いなど

a1

喫茶ペンギンの前で、
バグとミラが話している。
はるなが今日のサービスはバナナです。
と言っている。


a2

今度の波動はすごかったね。
発信源はこのすぐ近くだよ。あんな強力なの、
これまで体感したことがなかった。

この近くっていうことは、
魔族のハリー一家が怪しいわね。

使われたのは前のと同じタイプの蘇生の呪文だ。

情報管理部に戻って、
詳細を確かめてこようか。


a3

でも報告あげても、
局長動くかなあ。
あ、このバナナ甘くておいしいね。
なんだか癖になりそう。


a4

友達の佳奈から、
さっき旅行のお土産にもらったんです。
佳奈はアフリカに行ってたんですよ。
とはるなは嬉しそうに言った。


a5

その頃、魔術劇場に招かれたフミコは、
ハリーに面会していた。

おや、これは新しいお客人かな。
フミコって言います。


a6

アイスは知ってるわよね。
うん。顔馴染みだよ。
フミコはね。大昔にアフリカで生きていた魔族の人、
私が魔法を使って頭蓋骨から蘇生したのよ。

なんとお前、あの蘇生の呪文を唱えたのか。

正確には古代の魔族が使っていた呪文だけどね。
アフリカで栄えていた古代の魔族っていうと、
お父さんのご先祖かもしれないわよね。

ふむ。魔族と言っても色々だからね。
アフリカに魔族たちの都があったという話は聞いているが、
それ以前に、すでに魔族は世界に分散していた。

よくご存知ですね。
おっしゃる通りですわ。
私たちの都の歴史は、
魔族全体の歴史のごく一部なのです。
とフミコは言った。


a7

その頃、マンゴー亭では、
ルビーたちが話していた。

それでラッセル、
これからどうするの。


a8

あそこの遺跡調査はほぼ終わり、
副葬品が入手できれば希少で学術的な価値もあるが、
なにせ所有者が蘇っちゃったからね。
遺跡の存在もとても公表するわけにいかない。
最終的にはクラウドたちと相談して決めることだけど。
僕はまたどこか別の秘境を探すよ。


a9

いくつになっても探検をやめないで、
新たなロマンを求め続けるあなたらしいわね。
それでさっき話していた大きな鳥の羽根の話は?

うん、巨大な鳥の発見にはロマンがあるんだが、
もし魔法や魔族が絡んでいるとすると、
僕の求めるロマンとはちょっと違うんだなあ。


a91

私は一人でも出かけて行って、
マークと一緒にその鳥を探したい。
せっかく友達になれたんだし。
でもマークの集落まではあまりにも遠いのよね。
と佳奈は言った。



解説)
続きます。
Posted at 21:09 in n/a | WriteBacks (0) | Edit

Jul 12, 2024

蘇生の呪術

a1

佳奈がお土産のバナナを
知り合いに配りにいったあと、
二階のデジャから肉まんを食べに
ヴィヴィアンが降りてきた。

おや、アイス。
しばらくぶりね。
休暇で旅行にいってたんだって?
と言っている。


a2

アイスは、
実はあなたに頼みたいことがあるんだけど。
と言って、かいつまんで、
ヴィヴィアンに旅先でのいきさつを説明した。

ふーん。アイスの直々のご指名とあれば、
断るわけにいかないわね。


a3

アイスはヴィヴィアンにカメ新聞を
手渡した。
この呪文、魔法の書に載っているのと
微妙に違うわね。
古代の魔族はこんなふうに唱えていたんだ。

できそう?
微妙な違いだからすぐ暗記できるよ。
でも死者の頭蓋骨の蘇生はやったことがない。
自然の摂理に反する呪法で、
蘇る途中で失敗すると恐ろしいことが起きるから、
滅多なことで使うなって、
ハリーに釘を刺されてるのよ。


a4

でもやっちゃうけど。
というと、
ヴィヴィアンは両手をかざして
呪文を唱え始めた。


a5

あたりに薄い煙がたちのぼり。

しかし頭蓋骨は小刻みに震えただけで、
何も起きなかった。


a6

こうなったら、本気を出すわ。
そういうとヴィヴィアンは
本来の悪魔の姿に変身した。
呪文を唱え指先に思念を集中している。


a7

ヴィヴィアンの目がひときわ輝いている。


a8

すると、頭蓋骨の輪郭が薄らぎ、
薄い煙の中から女性が現れた。


a9

あなたが蘇らせてくれたのね。
どうもありがとう。
わたしはフミコ。
とその女性は言った。


a91

どういたしまして。
お礼ならそこにいるアイスに言って。
私は頼まれてお手伝いしただけなの。
だけどエネルギー使いすぎて、
流石にもうフラフラよ。
とヴィヴィアンは言った。


a92

アイス。あなたのことは知ってるわ。
あなたも蘇生の呪文を唱えてくれたでしょう。
その時は、あなたたちのいうグリーンマンを
呼び出すためだったけど、
あの時私の意識は目覚めかけていたの。

私呪力や魔力なんて全然ないのよ。

無心の境地は似たようなものなのよ。
だから私はあなたにも呪力を授けられるわ。
グリーンマンにそうしたようにね。


a93

あら、あなたって変幻自在なのね。
そうか。あなたも当然魔族なのね。
でもそんな変身ができるっていうことは。

私は魔族というか、
魔族とヴァンパイアのハイブリッドで生まれて、
それからなぜか悪魔になったのよ。
ヴィヴィアンっていうの。
パワーを使い切ったみたいだし、
普段はこの姿の方が楽だから。

そうだ。父にも紹介したいから、
すぐそこの魔術劇場に来ない?
父は純正魔族だし、あなた方の子孫かもしれない。

喜んで伺うわ。



解説)
続きます。
Posted at 20:27 in n/a | WriteBacks (0) | Edit
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