Nov 22, 2025
シモーヌとの会話

ざっと挨拶が終わって、
会話が始まった。

魔族の仲間に出会えるとは、
実に嬉しいね。
ご存知かどうかわからないが、
私は数百年前に魔術劇場で興行を始めて、
世界中の都市をあちこち回っていた。
その目的は、今では忘れられかけている、
神秘や魔法の存在を人々に宣伝するためだが、
もう一つの目的は、
世界中に離散して絶滅間近と言われている、
魔族の仲間を探すことでもあったんだ。

あちこちの都市に突然現れて、
魔法を見せる興行をして、突然消える
神出鬼没の不思議な建物。
魔術劇場のことは、一部では有名だけど、
それでも魔族の仲間との出会いは滅多にないのよ。
みんな素性が知られる危険を冒したがらないし、
仲間と知り合う必要性も感じていないみたい。
実は私もそうで、夫のハリーとは別居していたの。
でも娘とロンドンで暮らしていた時、
娘のヴィヴィアンが問題を起こしちゃってね。
ギャング組織に追われる羽目になって、
3年前の5月にここに逃げてきたわけ。
安全だし居心地がいいのでそれ以来同居しているの。
ハリーも何故かここの土地が気に入って、
世界ツアーをやめたみたいだし。
とカーミラが言った。

たまにスピリチュアル系の雑誌に載るので、
魔術劇場のことは知っていました。
でも私もあまり関心がなかったの。
どうせどこかの好事家のマジシャンが
やってるんじゃないかと思ってたわ。
でも祖母が200歳で亡くなる直前に、
魔術劇場は魔族のハリーっていう人が
主宰しているって教えてくれたの。

私の両親は私の幼い頃に亡くなっていて、
私は祖母に育てられたんですけど、
身寄りのない私が天涯孤独になることを
思い遣って教えてくれたのね。
それでハリーさんにお会いしてみたいと
思ったんです。
ハリーさんとは遠い親戚なんだって言っていた。

遠い親戚か。
私の家の血筋とも遠い親戚かもしれないわね。
魔族は魔族同士で結婚することが多いから、
過去を辿れば、だいたいどこかで繋がっている。

魔族はみんな自立心が旺盛だから
血縁を気にしない者も多い。
アフリカの奥地にはフラハという魔族の男がいて、
彼にはケントという兄がいるんだが、
その兄弟は、ずっと別々に生きてきて、
最近再会したんだ。
魔族は長寿だから軽く百年を越える話になるね。

ケントっていう人は有名なデイリープラネット紙の
記者をやっているのよ。
ずっと普通の人間のように暮らしていて、
今では魔法とも縁がないみたい。
シモーヌさんはアンティークを売るお店を
経営しているって言ってたけど、
魔法を使う機会ってあるの?
それは大有りなのよ。
お店は単純に世を忍ぶ仮の姿。
私は祖母にいろんな魔法を教えてもらったの。
家には古い魔術の書もあったから呪文の勉強もした。
あなたみたいに鏡の扉も生み出せるわ。
もっとも、行き先は一度行ったことのある場所に
限られるけど。
それは私も同じ。
とアイスが言った。
魔法をどんなふうに使うかというと、
私の場合いろんな古い道具や人形などの
骨董品に宿っている精霊を見つけ出して、
彼らの願いを聞いてあげるの。
できれば夢を叶えてあげる。
そういうことが楽しいし、
魔族に生まれた私の使命だと思っているのよ。

アイスは、
この世界で絶滅しかかっている
ヴァンパイアたちのために、
別世界を作ってあげたというマーリンのことを
思い浮かべていた。
それに何よりも、フィギアの精霊たちのために
常春の別世界を作った謎の魔族の女性が
シモーヌだったに違いないと確信したのだった。
解説)
続きます。
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