Dec 21, 2025
船の賑わい

一行は扉を抜けて船室にやってきた。
この船はどこに向かっているんですか。
進路としては北東ね。
陸地の北限の海辺で見つけた船で
どんどん陸地から離れているのは確か。
とは言っても、
陸地全体がどのくらいの大きさなのか。
この海がどこまで広がっているのかなど、
何にもわからないから
行く先は見当がつかない。
とアイスが言った。
普通、自分の見ている夢の世界が
どこまで広がっているかなんて考えませんからね。
とダリオが言った。
夢を渡り歩く私たち夢食いにとってもそうよ。
肝心なのは見聞きできる世界の出来事だけ。
とセリーヌが言った。

佳奈とエトナは海に見とれている。

私海見るの初めてよ。
私は新人研修でアフリカに行った時、
飛行機の窓から見たことがある。

シノとダリオも
船首から海を見ていた。
映画のポーズみたいに
手を広げてみて。

最初どうしてって思ったけど、
ヴィヴィアンが
みんなに声をかけたのは正解ね。
みんな海景を楽しんでますね。

噂をしていたら、
ヴィヴィアンとクックドゥーが
魔術劇場から到着した。
おお、確かに私の船です。
エクレア号っていうんですよ。
とクックドゥーが言っている。

懐かしいなあ。

私はこの船で船長をしていました。
どこの国にも帰属しない、
いわゆる海賊ですが、商船を襲うのではなく、
各地の希少品の密輸や財宝探しが主な仕事でした。
そんなある時、不思議な貝殻を見つけたんです。
その貝殻は耳に当てて眠ると、
潮騒の音を奏でて、夢の世界に連れて行ってくれます。
その夢は貝殻の思い出の海の世界。
私はそんな夢を繰り返してみているうちに
特別な力を持つようになりました。
自在にその夢に出入りできるようになったんです。
夢に入り込める夢食いになったのね。
とセリーヌが言った。
ある時私の船は嵐に会って、私も乗組員もろとも
海の藻屑になってしまいました。
しかしなぜか私は死ななかった。
というか、私の亡骸は孤島の浜辺に打ち上げられ、
やがて強風に飛ばされた結果、
草地の窪みで白骨になりましたが、
気がつくとなぜか私は生きていた。
この世界に執着した結果、
骸骨姿の亡霊になっていたのかもしれませんが。
何にそんなに執着していたの?
とアイスが尋ねた。
人恋しさと言ったらいいんでしょうか。
私は生前、ほとんど海の世界しか知らなかったし、
仲間だった乗組員たちもみんな死んでしまった。
そのことが無念だったというか。
それで、広場に来て幽霊船の乗組員を勧誘して、
貝殻のみる夢の世界に拉致しようとしていたのね。
とヴィヴィアンが言った。
言い方は問題ありますが、その通りです。
私はいつまでも一緒に宝探しの旅をする
仲間が欲しかったんです。
でも、それは彼らを騙して、
永遠にその世界に閉じ込めることにもなる。
ヴィヴィアンさんに言われて反省し、
今では魔術劇場に居候させてもらっています。
おかげで何人もの友達もできて
とても幸福なんです。
海のことは忘れかけていたんですが。

話し終えて甲板に出たクックドゥーは、
佳奈たちに話しかけられている。
クックドゥーさん。
その帽子はスイカですか?
そう見えるでしょう。
実は帽子にワカメが張り付いているんです。

クックドゥーは海を見ていた。
ここは魔族のみた「忘れられた夢の世界」だと
ヴィヴィアンが教えてくれた。
この船があるということは、
貝殻のみる夢と繋がっているということなのかな。
よくわからないけど、こうして
心地よい海風に吹かれているだけで、
なんだか命が蘇る気がするなあ。
解説)
続きます
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