Aug 21, 2022

魔術劇場で そのに

d1

頼みというのは、これなんだが。
と言ってマーリンは、
スーツケースの中から一体のフィギアを取り出した。


d2

君に断られた場合を見越して、
このフィギアに精霊を宿して、
連中の首領にしてやろうと用意してきたんだ。
リーダーの出現を望んでいる彼らも喜ぶし、
私も噂から解放されるからね。
ただ、首領にふさわしい精霊を宿すには、
君の魔力が必要なんだ。

そんなこと、私にできるわけが。
子供の頃から透視能力ならあったけど、
魔法なんて使えないし、
教えてもらったこともないのよ。
とヴィヴィアンは言った。

君にも魔族の血が流れているんだよ。
なに簡単なことだ。私が合図するから、
思いを込めてフィギアを見つめて、
心に浮かぶことに集中してくれればいい。


d3

説得されたヴィヴィアンは、
呪文を唱え始めたマーリンの合図に従って、
フィギアを見つめて深く思いを凝らしてみた。
すると体の奥から不思議な力が発動して
身震いするような感覚を覚えた。
周囲に薄い煙が立ち上った。

カーミラは、あらら、と思っている。


d4

ハリーには、
そのフィギアは、確かに精妙に作られてはいるが、
これまで誰かに長い間愛玩されたり、
執着されたことのない、ありきたりのものに思えた。
そういうものに籠った想念の痕跡を感じ取って、
精霊を宿すことは極めて困難なはず。
しかし、今起きていることは、
彼のこれまでの経験を超えるものだった。


d5

薄い煙が消えていくと、
フロアにフィギアによく似た
等身大の男性が立っていた。


d6

ふむ。ここはどこですかな。
とその男性は言った。


d7

マーリンが杖をかざすとドアが現れ、
男性はおずおずとそのドアから去っていった。
ほんの僅かな間の出来事だった。


d8

ヴィヴィアン、うまくいったようだね。
それに、君の魔力も新たに芽生えたようだ。
あの人、どこへ行ったんですか?
ヴァンパイアたちの想像する世界だよ。
彼らが共同で夢見る世界といえばいいか。
この劇場の扉は、そんなふうに
異世界と繋げることができるんだ。
そうだろうハリー。


d9

確かに。
昔一緒に研究した魔法陣の呪法を、
よく覚えていたものだな。
それもそうだが、今の魔法には驚いた。
好きなものに精霊を宿せるってわけか。
随分上達したものだね。

マーリンは楽しそうに言った。
君が魔術劇場なんて啓蒙活動をやって、
忙しく世界中を巡っている間、
ずっと魔法の研究を重ねていたからね。
いやそれは冗談で、
実を言えば、僕の力だけでは
とてもまだそこまではできない。
実際にはヴィヴィアンの力だよ。
フィギアに宿った精霊はヴィヴィアンの
分身のようなものだ。
予想はしていたが、予想以上だった。

とても俄に信じられない。
とカーミラは思っている。


解説)
総統のフィギアヘッドは、
以前ドールショーで、ミニタリー系のフィギアを
扱っていたブースで入手したものです。
こんなふうに使うことがあろうとは。
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