Dec 07, 2025
散歩の続き

佳奈とエトナは
みすずの家に戻ってきた。
あら、あそこの人誰かしら。
広場で見たことあるわよ。
8月初めのコンテストで優勝した人じゃない?
名前は忘れちゃったけど。

キッチンでみすずに出会った。
お帰りなさい。
湖畔の散歩はどうだった?
感動しました。
やはり本物は違うわ。
あのー、2階のベランダで
オレンジ色の髪の人を見かけたんですが。
ああ。
彼女はあなたたちが散歩をしている間に
遊びに来たの。

みすずはシビルを紹介している。
私はシビル。
あなたたち、コンテストで優勝した時、
広場で喝采してくれたわね。
よく覚えているわ。
私はエトナといいます。
あの時のことは私も覚えてます。
オレンジ色のその髪型は
すごくユニークなので忘れないわ。
私は佳奈。私も覚えてます。
サラたちと一緒にジープで
郊外に行った人でしょ。

4人はコーヒーを飲みながら話している。
この忘れられた夢の世界の中央部には
森林地帯が広がっていて、
そのちょうど真ん中くらいにこの家はあるの。
東に行くとサバンナがあり、やがて砂漠地域。
北に行くと海に出て、その向こうに小島がある。
西に行くと雪に覆われた山脈がある。
この世界には空き家が点在していて、
この世界を訪れた夢食いたちは、
そういう家を見つけて住み着くことがある。
森の中の小屋にはシノが住んでいるし、
西の砂漠の家にはセリーヌが住んでいる。
雪山の小屋にはラルゴが住んでいるし、
北の小島の家にシビルが住んでいるのよ。
随分広い世界なんですね。
そうなの。
でも、そういうことがわかったのはつい最近のこと。
アイスやヴィヴィアンが空を飛んで
最果ての地域の様子を教えてくれたの。
私たちが暮らすのはだいたいこの森の中だけ。
遠出をするのは危険だからね。
まだわからないことも多いのよ。

ヤミーがバナナを運んできた。
気楽に恐竜観察ができると思って来たけど、
けっこう危険が多くて大変な世界なんですね。
遠出ができないのは残念だなあ。
この湖の周辺なら大丈夫よ。
それにシノかナディアが帰ってくれば、
森の中ならガイドしてくれる。
彼女たちが戻ってくるまで待つのなら、
私の住む島に来てみる?
大人しい草食恐竜しかいないから。
とシビルが言った。

佳奈とエトナは
シビルの言葉に甘えることにした。
シビルさんも魔法を使えるんですか?
私は魔法は使えないけど、
行き来するために、
アイスに呪文だけ教えてもらったのよ。

3人は北の小島の
シビルの住む家に移動した。

霧が濃くて雰囲気あるところですねー。
そうでしょ。
火山の島だから割と温暖で、
静かな一人暮らしには最適。

あれはサイカニア。
みすずたちの住む森にいるのとは、
別種みたいだけど、
大人しい草食恐竜よ。
いい感じだなあ。
解説)
続きます。
Dec 06, 2025
岸辺の散歩

ディアナがいれば案内役を頼めるけど、
あいにく留守だし、えーっとシノは。
シノはハロウィーンに町に来てたけど、
帰る時にダリオさんと旅行するって言ってた。
ダリオさんの住む世界を見てから、
こっちの世界を案内するって言ってたから、
そろそろ戻ってくると思うわ。
とサラが言った。
シノは森の中の小屋に住んでるの。
恐竜観察の好きな夢食いなので、
頼めば喜んで案内してくれるはず。

ディアナかシノが戻ってくるまで、
危険だから遠出はしないほうがいいわよ。
戻ってきたら案内を頼みましょう。
それまでは家の近くにいて。
そこの湖の周りでも恐竜観察はできるから。
そーなんですね。
じゃあ、早速散歩に行ってきます。

みすずさんって親切な人ね。
恐竜に乗ってたのには驚いたわ。

みすずさんが言ってたみたいに、
湖の周りをぐるっと回ってみよう。

二人はヤミーに出会った。
さっきはどうも。
わー、バナナが取れるのね。
お一つ、いかがですか。
あ、この道はジャングルに続いています。
曲がらずにまっすぐ行けば湖を回れますよ。

二人は湖の岸沿いに直進することにした。
なんかワクワクしちゃうね。

草食恐竜のサイカニアが水を飲んでいる。
すごいすごい。
あ、あれは溺れているのかしら。
気持ちよさそうよ。
水浴びしてるんじゃない?
岸から転げ落ちたようにも見えるけど。

サイカニアたちが去ったので、
二人はさらに進んでいった。
大きいわねー。

プラキオサウルスは、悠然と
湖面を眺めていた。
魚影を見ているようだ。
解説)
続きます。
Dec 05, 2025
みすずの家で

サラが呪文を唱えると扉が開き、
3人はさっそくみすずの家に向かった。

3人は鏡の扉を抜けて、
みすずの家に到着した。
あら誰もいないのね。
ちょっと様子を見てくるから
ここで待ってて。

佳奈とエトナは、
湖の景色を眺めている。
ここがジェラシックワールドね。

サラはフミコと一緒に戻ってきた。

佳奈さんとエトナさんね。歓迎するわ。
といっても私の家じゃないけど。
とフミコが言った。
お世話になります。
今、みすずは散歩に出かけてるの。
あいにくディアナも精霊たちの国に出かけていて留守。
佳奈さん、サラから話を聞いたけど、
クリスマスまでの長期休暇なんですってね。
恐竜観察をするなら、この家を拠点にするといいわ。
泊まれる部屋を準備するからゆっくりしていって。
みんなに紹介するわ。

一行はフミコに案内されて、
一階のキッチンに向かった。
この子はミミコ。私と同じ魔族なのよ。
そこにいるのはピリカと言って、
子鹿のフィギアの精霊。

ミミコが泣き出したので、
フミコは部屋に連れて行き、
サラが案内することになった。
湖に面した廊下の向こうに
カエルがいる。
あれはカエル王女。
有名な夢食いのカエル大王の娘さんよ。
夢食いってなんですか。
夢の中に出現して夢に棲みついたり、
夢をコントロールしようとする存在の呼び名。
いろんな種類がいるの。
この家の主人のみすずも夢食いよ。
ふーん。
そういえば、ここは夢の中なんですね。
そうよ。
ここは忘れられた夢の世界。

一行が廊下を歩いていくと、
ロボットたちに出会った。
ちょうどよかった。
ロボットの皆さんを紹介するわ。
青いのがヤミー、赤いのがヤッピー。
向こうでオウム貝を採取してるのがヤビー。
みんな未来世界から来て、
ここで暮らしてるのよ。
コンニチワ。
こちらは佳奈とエトナ。
この世界に恐竜観察に来たの。
しばらく泊めてもらうみたいだから、
仲良くしてあげてね。
お世話になります。

サラはもう帰っちゃうの。
ええ。広場に戻る時は、
魔族のフミコに頼んでね。
彼女が呪文を知ってるから。
あ、なんだろう。
地響きがして、
ジャングルがわさわさ揺れていますよ。
と佳奈が行った。

ジャングルの中から
アンキロサウルスに跨ったみすずが現れた。
あらサラ。お客さん?
二人は恐竜観察に来たの。
しばらく泊めてもらえる?
もちろん大歓迎よ。
お二人とも普通の人間みたいね。
現実世界の広場でお見かけしたかしら。
みすずさんですね。
私はエトナと言います、どうぞよろしく。
6月初めのコンテストで優勝されたの覚えてますよ。
お世話になります。
私は佳奈。いつも広場のベーカリーにいます。
10月のハロウィーン月間にも来られたでしょう。
すごい恐竜に乗ってるみたいですが、
恐竜ってそんなに懐くものなんですか?
この子は特別。アンキローっていうのよ。
解説)
続きます。
Dec 04, 2025
クリスマスシーズン そのさん

広場ではクリスマスシーズン用の
飾り付けがほぼ完了していた。

今年もベーカリーの出店が作られ、
アルバイトのフローラもやってきて、
クリスマスケーキや七面鳥の予約受付や、
各種ケーキの販売を初めている。

毎年恒例で、
広場の出店は歳末の風物詩ね。
今年はちょっと値上がりしてるのよ。
やっぱり。

サンタも視察に来ていた。

今年も早いお出ましですね。
視察を終えたら、
肉まんを食べるのが楽しみなんだよ。

ドルフィンで旅行用に着替えして
装備を整えた佳奈がルビーと話している。

すっかり準備ができたようね。
護身用にこの銃を持って行って。
いいんですか。
随分頑丈そうな銃ですね。

CGで開発された最新式の拳銃よ。
少佐から特別に譲り受けたの。
どっかでみたようなデザイン。
あ、ブレードランナーの。
ええ、デザイン担当者が
SF映画オタクだったからって言ってたわ。

そこにカメラマニアのエトナがやってきた。
佳奈、恐竜を見に旅行に行くそうね。
私も一緒に行っていい?
もちろん。
マヤ先輩にも声をかけたんだけど、
レイチェルさんがいないので、
アンのメンテがあるからって断られちゃった。
二人の方が何かと安全。
と佳奈が言った。
エトナは、デイリープラネット紙と
フリーカメラマンとして契約してるでしょ。
鏡の扉や異世界のことは秘密だから、
撮影しても恐竜の写真は使えないわよ。
とルビーが言った。
はい。そこのところは承知しています。
純粋に趣味として撮影したいんです。

佳奈とエトナは
サラたちの部屋に向かった。
解説)
続きます。
Dec 03, 2025
クリスマスシーズン そのに

文学青年は
近くの神社の境内を散歩している。

ジェニーたちの部屋には、
恒例のクリスマス用の飾り物がレンタルされていた。
今年もミニツリーね。

文学青年が帰ってきた。
おかえりー。
神社の銀杏が綺麗だったよ。
おや、今年もミニツリーか。
これから粉雪をかけるところ。
とたまきが言っている。

たまきはミニツリーに、
小麦粉を振りかけた。
いい感じね。
と言っている。

探偵事務所にも
リタがドルフィンの倉庫から
ミニツリーを運んできた。

小麦粉じゃなくて、
粉砂糖の方がキラキラして
いいんじゃない?
それはもったいないよ。

サラたちの部屋には、
佳奈がクリスマスグッズを運んできた。
ご苦労さまと言われている。

人気のミニツリーは品切れで、
キューピーのサンタを持ってきました。

これ可愛いくて大好きよ。
ところでサラ。
私クリスマスまで休暇をもらったの。
それでレイチェルさんが言ってた
恐竜がいる世界に行ってみたいんだけど、
そこは未来の世界で、
鏡の扉を使わないと行けないんでしょ。
それでルビー先輩に言ったら、
サラなら呪文を知ってるって。
ふーん。
いいわよ。連れて行ってあげる。
恐竜は未来の世界にもいるけど、
もとは忘れられた夢の世界から来たもの。
そっちの方が恐竜が沢山いるから、
観察しに行くならそっちの方がおすすめね。
そーなんだ。
その世界には、広場のコンテストで優勝した
みすずやディアナが暮らしている家がある。
フミコもそこでミミコっていう子供の
世話をしているから、そこに行きましょう。
きっと歓迎してくれると思うわ。
でもね。家の周りで観察するだけならいいけど、
遠出してあちこち見て回りたいなら
それなりの装備はして行った方がいい。
わかったわ。
準備して出直ししてくる、
解説)
続きます。
Dec 02, 2025
クリスマスシーズン

クリスマスシーズンを迎えて、
広場では飾り付けが始まった。

ドルフィンの倉庫から、
様々な飾り物が搬出されている。

ドルフィンのマスターは、クリスマスツリーの
埃を払っている。
倉庫に新しく入荷したグッズはないんですか。
君たちの被っている帽子くらいかな。

佳奈はルビーと話している。
もうすぐ休暇もらえるんですね。
クリスマスの飾り付けが終わったら、
旅行に行こうと思います。

楽しんでいらっしゃい。
行先はアフリカかしら。
マークの村外れにはホテルもできたっていうし、
佳奈も去年遺跡探検に行ったから、
知り合いも多いんでしょう。

マークの村も魅力的ですが、
できたら恐竜を見に行きたいんです。
ハロウィーンの時に、
広場に帰ってきたレイチェルさんが、
「向こうの世界はまるでジェラシックワールドよ」
って言ってたでしょう。
私も今年の8月に、ジョー軍曹とエルザと一緒に
映画「ジェラシックワールド」を見に行ったので、
その言葉が気になっちゃって。
でも、レイチェルさんが行ったのは未来の世界。
鏡の扉を使わないと行けないんですよね。
行先の呪文を知らないと行けないわね。
レイチェルもツナもナディアも、
アイスもヴィヴィアンもフミコも、
あいにく今はこの町にはいない。
あ、サラに頼んでみたら?
サラたちの部屋に固定式の鏡の扉があって、
サラなら呪文を知っているはずよ。
ついでに配給するクリスマスグッズを
サラたちの家に届けてね。
わかりました。

広場の近隣にはドルフィンの倉庫から
クリスマスグッズが配給されて
飾られるのは近年の恒例になっていた。
高台の休憩所でも。

喫茶ペンギンにも。

広場でも飾り付けが進んでいた。

マンゴー亭の軒先でも。
あの箱の中身、毎年気になるのよね。
解説)
続きます。
Dec 01, 2025
コンテストの優勝者の発表

早くも師走。
広場では平穏な朝が訪れていた。

アンナとレイは
クリスマスシーズン用の
帽子を支給されていた。
これチャイナドレスに
全然似合わないと思わない?
色はマッチしてるわよ。

ベーカリーのテーブル席では、
ルビーたちが月例のコスプレコンテストの
優勝者の選考会をしていた。
先月は新しい登録者っていなかったわね。
シモーヌっていう観光客の人が来たけど、
彼女は参加登録しなかったし。
この町の住民の常連から選びましょう。
みんな参加賞のチョコレート狙いで
最近は手を抜いて普段着で登録するから
選ぶのが難しいのよ。

佳奈とリタが、
参加賞のチョコレートが入った、
掴み取り用の箱を運んできた。
ルビー、そろそろ発表予定の時間よ。

結局決まらなかったなあ。
いつもながら私に一任されちゃた。

ルビーは広場を眺めている。

ルビーはマイクをオンにして
発表を始めた。
みなさん。
先月のコスプレコンテストの
優勝者を発表します。
厳正中立な審査の結果、
優勝されたのは
赤い帽子を被ったレイさんです。

レイ、良かったわね。

万来の拍手と歓声の中、
レイは優勝トロフィを授与されている。

私が優勝した理由聞いてもいいですか。
クリスマスシーズンの到来を
象徴するコスプレっていうところかしら。
とルビーが言った。
この帽子、さっき支給されて
被ったばかりなんですけど。
細かいことはいいのよ。
解説)
続きます。
Nov 30, 2025
洞窟で

3人は雪山を登っていく。

この景色見覚えがある。
洞窟はこのあたりのはずよ。
とアイスが言った。

あったあった。

ここを抜けて来て、
初めてこちらの世界を見つけたのよ。
私とトロンが、
向こうの入り口を雪で埋め戻したから、
今は行き来できないようなっている。
とアイスが言った。
不思議ね。
この世界を作った時、
そんな別世界との通路を
作った記憶はないんだけど。
とシモーヌが言った。
あ、誰か来るわ。
とディアナが言った。

洞窟の奥からフクロウがやってきた。

ディアナ様。
アイスさんですね。
それにあなたはもしかして。
とフクロウが言った。
私の名はシモーヌ。
あなたも私が倉庫で見つけて
この世界に招いたフクロウの置物の精霊ね。
お名前はなんていうの?
オルペミと言います。

雪山を散歩してたんですが、
吹雪がひどくなって、
この洞窟に避難していたんです。
うたた寝していたら、
話し声が聞こえたので。
吹雪はもう収まっているわよ。
でもどうして私の名前まで知ってるの?
とアイスが言った。
今年の6月の終わり頃、
ディアナ様が帰ってこられた時、
一緒におられたじゃないですか。
あの時、オウル様が王座の間に
みんなを集められたでしょう。
あの場所に私もいたんですよ。
そうだったのね。
あなたたちの姿はみんな個性的だけど、
数が多いからとても覚えきれなかった。
オルぺミさん、それで、この洞窟の奥は?
とアイスが尋ねた。
行き止まりですよ。
出口は雪で埋まっています。

雪山は天候が変わりやすいのね。
また吹雪かないうちに山を降りましょう。

時は省略するかのように流れ、
一行はお城の近くまで帰ってきた。
解説)
続きます。
Nov 29, 2025
散歩の続き

3人は見晴らしのいい高台から
湖の湖畔に降りて行った。
あれは恐竜?

庭園で見かけたフクロウたちがやってきた。
ディアナ様、お連れの方は、
やっぱりあの時の方だったんですね。
庭園でお見かけしてオウル様にお聞きしたんです。
散歩されているとのことで、
もしかしたらら、ここに来られるんじゃないかと
お待ちしていたんですよ。
庭園でアコーディオン弾いてた方たちね。
あの恐竜は?
あれはドラゴンドラと言って、
遊覧船なんですよ。
以前、観光にいらしたサラさんとピリカさんを、
お乗せしたこともあります。
湖を一周するんです。
お乗りになりますか。
楽しそうだけど、
今はあちこち見て回ってるの。
またいつかね。
とシモーヌが言った。

3人は話しながら、
森の中の細道を歩いている。
この世界を作るときに、
湖にあんな遊覧船を浮かべた記憶がないんだけど。
とシモーヌが言っている。
私も遊んだ記憶がないです。
とディアナが言った。
乗り物なんでしょ。フクロウたちが自分たちで
作ったんじゃないの?
あ、あそこにウサギがいるわ。
とアイスが言った。

アイスは、初めてこの世界に来た今年の6月に、
やはり森の中で三匹のウサギに出会って、
お城へ行く道を教えてもらったことを
思い出して、近づいていった。
やっぱりあの時のウサギだわ。
こんにちわ。

ウサギたちは驚いているようだ。
ディアナ戻ってきたのね?
それにこの世界の創造主のシモーヌも。
と一匹が言った。
私のことを知ってるのね。
私は昔のことをあんまりよく思い出せないの。
私は昔ここに住んでいたらしいけど。
とディアナが言った。
あなたたちはウサギのフィギアの精霊?
私も見覚えがないんだけど。
とシモーヌが言った。
それは無理ないわ。
あなたにお目にかかるのは初めてなのよ。
でもあなたのことはよく知ってるの。
私たちは洞窟を通ってこの世界に来て、
この森に住んでるの。
だったら隣の忘れられた夢の世界から侵入した
夢食いじゃないの?
とアイスが言った。
夢食いとも精霊とも違うわ。
でも詳しいことは秘密なのよ。
秘密秘密と、ウサギたちは
口々に言った。

3人は謎めいたウサギたちと別れて
散歩を続けることにした。

ずっと見に来なかった間に
この世界、随分変わっちゃったみたいね。
今のウサギたちは何だったのかしら。
とシモーヌが言っている。
私のこと覚えてたみたいだから、
ずっと前からいたみたい。
シモーヌさんのことも知ってるって
言ってたし。

セコイヤの大木の根元に
腹這いになっていた大トカゲが、
アイスたちに気がついたようで身を起こした。
前にもここで出会ったわね。
こんにちわ。
とアイスが言った。

ふむ。君とは五ヶ月ぶりだな。
おやこれはこれは、シモーヌさん。
なんとディアナも一緒か。
あなたのことは覚えてるわ。
フクロウたちと仲良くやってる?
とシモーヌが言った。
もちろんですよ。
とはいえ私は森の中で暮らしていて、
普段あんまり交流はないんですが。
私はね。ディアナのためにこの世界を作ってから
今までずっとここを訪れたことがなかったの。
それで忘れられた夢の世界でディアナと再会して、
彼女が長い間この世界から失踪していたことも知った。
彼女もよく覚えていないみたいなので、
その出来事のいきさつを知りたいのよ。
何か思い出せる?
とシモーヌが尋ねた。
ディアナがいなくなった時、
女王様がいなくなったと大騒ぎしていたから
フクロウたちの方がよく知っていると思いますよ。
ディアナは突然いなくなったらしいです。
フクロウたちは国中を捜索して、
雪山に洞窟を発見して、隣の世界にまで
捜索隊を出したと聞いています。
でも結局見つからずじまいでした。
ディアナ、今までどこに行ってたんだい。
と大トカゲが言った。
私は覚えていないのよ。
気がつくと記憶を失って森の中にいたの。
ずっとその森で知り合った夢食いたちと暮らしていた。
そこがこの国と洞窟で繋がっている隣の
忘れられた夢の世界だったって知ったのは最近のこと。
残念だけど、あなたのことも覚えていないの。
とディアナが言った。
ウサギたちのことは何か知ってる?
とアイスが尋ねた。
あれはいつの間にか森に住み着いた
気のいい無害な連中ですよ。
洞窟から来たって言ってたわよ。
それは初めて聞くなあ。
てっきりシモーヌさんが招き入れたんだとばっかり。
フクロウたちが洞窟を発見したんだと思ってましたが、
まだディアナがいなくなる前から
ウサギたちはこの森にいましたから、その頃から
洞窟は別世界と繋がっていたんでしょうね。

3人は洞窟まで行ってみることにして、
雪山を登っている。
色々聞いたけど、ディアナの失踪の時の様子について、
手がかりってほとんどつかめなかったわね。
逆に謎が増えたみたい。
解説)
続きます。
Nov 28, 2025
常春の国で

3人は城を出て散歩に出かけた。
オウルたちに見送られている。

庭園ではフクロウたちが
アコーディオンを弾いていた。
平和そうね。

今の人、あの方じゃない?
まさか。
と飛び上がって噂している。

この世界を作った時に来て以来ね。
近くに森や湖があるはずよ。
私、失踪する前に、
ここにいた頃のことは、
よく覚えてないんです。
でも歩いていると、
なんとなく思い出しそう。
とディアナが言った。
私は雪山の洞窟からお城までのルートは知ってる。
お城の周辺を散歩したセリーヌが、
湖があるって言ってたわ。
とアイスが言った。

天気が良くて、お花見日和ですね。
常春の国だからね。

あそこにカマキリがいますよ。

カマキリはシモーヌを見ると
近づいてきた。
もしかして、あなたは私をここに
連れてきてくれた方でしょう。
おかげ様で楽しく暮らしています。
それはよかったわね。

3人は、見晴らしのいい湖のほとりにでた。
怪鳥が近づいてくる。
今度は何かしら。

怪鳥は一行のまじかに急降下して
ホバリングしている。
アイスは胸ポケットの銃を抜いて、
とっさに身構えた。
おいおい、俺は怪しいものじゃないよ。
お城の庭園の彫像の家に住んでいる
アーキスっていうんだ。
ヴィヴィアンっていう悪魔と契約して、
この国の巡回パトロールしている。
あんたたちのことは、オウル様から聞いた。
この世界を作ったシモーヌっていう人が
来ているっていうんで、
巡回のついでに挨拶しに来たんだ。
それはわざわざどうも。
私がシモーヌよ。
とシモーヌが言った。
そうか、俺は夢食いのアーキス。
あんたは魔族なんだな。魔族は、
こんな世界を作れるんだからすごいものだな。
いろいろ話をしたいところだが、
あんたたちは散歩の途中みたいだし、
俺も巡回の途中なんだ。そろそろ行くよ。

アーキスは飛び去っていった。
この世界にも夢食いモンスターが住んでるの?
彼の名前を聞いて思い出したけど、
ヴィヴィアンが彼のことを言ってたわ。
雪山の洞窟を通って偶然この世界に
紛れ込んだ夢食いモンスターがいて、
この世界が気に入って定住したがっていたから、
望み通りにしてあげたって言ってた。
アーキスっていう名前もヴィヴィアンが
名付けてあげたんだって。
とアイスが言った。
もともと夢食いモンスターは
侵入した世界を征服したがるものでしょう。
だめだったら別の世界を求めて消えていくはず。
それが巡回パトロールをしてこの世界を守っているなんて。
悪魔との契約だからね。
ヴィヴィアンがどんな契約をしたんだか。
解説)
続きます。
Nov 27, 2025
常春の国へ

シモーヌさん。
あなたが作ってくれた
精霊たちの世界に行きませんか?
一度行ったきりっておっしゃってたでしょう。
と立ち上がってディアナが言った。
そうね。
世界を作ってあげたあとは、
住人の精霊たちに任せきりで、いっさい、
顔も手も出さないっていうのが私の方針なんだけど。
あそこは最初にあなたのために作った世界。
そのあとで自由に生きたいと望む
フィギアの精霊たちを送る場所にしたの。
みんなで楽しくやってるんじゃないかと思ってた。
あなたがここの夢の世界に置き去りにされてたなんて
あなたたちに聞いて初めて知ったのよ。
それはともかく、さっきまで私が話したことは
みんな私の推測だから、実際は何が起きたのかは謎。
行けば少しはわかるかもしれないわね。
と言ってシモーヌも立ち上がった。

向こうの世界にも鏡の扉が常設してあるのよ。
呪文を唱えて私も一緒に行くわ。
とアイスが言っている。
最初はどうやって向こうの世界を見つけたの?
この世界の西の果てに雪山があって、
そこに向こうの世界に抜けるトンネルがあったの。
この世界に来た夢食いが、
そこから向こうの世界に侵入したので、
今は雪で埋め戻してある。
色々あったのね。

アイスは呪文を唱えて
常春の国のお城の中にある
鏡の扉のイメージを思い浮かべている。

三人は鏡の扉を抜けて、
お城の中の一室に出た。

同じ顔の人が二人もいると
フクロウたちが混乱するから。
と言って、ディアナは
鹿の姿に変身した。

誰かいないかなあ。
と言いながら三人が別室に行くと、
執事のミネルバとイブーに出会った。
これはこれはディアナ様とアイスさん。
それにお連れの方は。
とミネルバが言った。
ああ、あなたは忘れもしない、
倉庫で私たちをこの世界に導いてくれた、
あの時の方ですか。
とイブーが言った。
そうなのよ、
この人はシモーヌさん。
感激です。
とミネルバが言った。
よろしくね。
とシモーヌが言った。

すぐにお昼寝中のオウル様に
声をおかけしてお呼びしますので、
応接間でお待ちください。
私がご案内します。
イーブは喜んでいる。

やがて三人が案内された応接間で待っていると、
寝起きのオウルがやってきた。
ディアナ様、シモーヌ様という
創造主が来られたと聞きましたが、
本当でしょうか。
あそこにいるのがシモーヌさんよ。
シモーヌはよろしくね。
と言っている。

シモーヌ様。感激のあまり、
なんと言ったらいいか、言葉もございません。
私は女王代理のオウルと申します。
私たちがシモーヌ様にこの世界に導かれて以来、
ただ一人の先住者であった鹿のディアナ様を
国の女王と戴いて仕えてきましたが、
ある時ディアナ様が失踪されたので、
私が臨時に代理役を務めていました。
先頃ディアナ様は一度戻ってこられたんですが、
自分は自由の身でいたいから、
国王の代理役を続けて欲しいとおっしゃられて、
現在に至っているわけなのです。

それはご苦労様。
ディアナの失踪と帰還という出来事を除けば、
だいたい私の予想通りの展開ね。
あなたたちフィギアの精霊同士なら
みんな仲良くやっていけると思っていたわ。
あなたたちをこの世界に送り込んだまま、
私が一度も姿を現さなかったのは理由があるの。
けしてあなたたちを見捨てたわけじゃない。
それは全て生きていて生じる問題を
自分たちの力で解決して欲しかったからよ。
それはこれからも同じ。今日ここにきたのは、
ディアナの失踪にまつわることを
知りたいというのが大きな理由なの。
それと一つはやっぱり世界の変化を確かめたいことかな。
このお城、最初はこんなに立派じゃなかったし、
壁にはディアナの肖像画もなかった。
あなたたちがこの世界を作り替えているのよ。
さてと、もうこのお話は終わり。
散歩して戻ってくるから、
大袈裟な歓迎会なんてしないでね。
解説)
続きます。
Nov 26, 2025
みすずたちの会話

みすずたちが話している。

ディアナたち滝を見に行ったらしいけど、
二人だけで大丈夫かしら。
ディアナが一緒なら大丈夫よ。
このあたりの森は庭みたいなものだから。

二人は無事に戻ってきた。
お帰りなさい。
みなさん、居間にいらっしゃいますよ。
とヤッピーが言っている。

綺麗な滝だったわ。
何か思い出せた?
それがさっぱり。

でも、シモーヌが
フミコみたいに滝に向かって、
挨拶の呪文を唱えたら、
風が吹いて滝の上に綺麗な虹がかかったの。
とディアナが言った。
それは偶然じゃないわね。
とフミコが言った。

挨拶の呪文って知らないなあ。
とアイスが言った。
すぐ覚えられるわ。
挨拶したい相手に向かって、
挨拶の呪文を唱えて、
あとは心に思い浮かぶ言葉を唱えればいいのよ。
決まった言い方があるわけじゃないの。
呪文を唱えて、
行きたい場所の記憶の情景を思い浮かべれば、
鏡の扉が現れるのと同じ。
それで、ここに戻る途中で
色々考えてみたんだけれど。

私の想像なんだけど、
この夢の世界がいつまでも消えずに残っているのは、
魔法がかかっているからでしょう。
私は魔法をかけた覚えはないし、
夢そのものを忘れてしまっているの。
誰かが消えかかる夢に魔法をかけたとしたら、
夢の中に一人取り残されたディアナしか考えられない。
でももちろんディアナは魔法を使えないし、
自分がなぜここにいるのかも知らなかった。
魔力を持つ夢食いが侵入したことも考えられるけれど、
魔族のみる夢に夢食いが入り込むのは稀だし、
タイミングが良すぎる。
私やディアナのことを知っていて、
そんなことができるのは。
あなたのお婆さまね。
とアイスが言った。

そうなのよ。
この世界の夢を見ていたのが、祖母だと考えれば、
辻褄が合う。祖母は孫の私と私が大事にしていた
鹿のフィギアの精霊が森の中で遊ぶ夢を見ていた。
もしくは、私がディアナと遊んでいる私の夢の中に
入り込んでそれを見ていた。
夢は私が目覚めれば消えてしまう。
でも祖母は、その夢がいつまでも続くように魔法をかけたの。
どうしてそんなことを。
ずっとその夢を見ていたかったんじゃないかしら。
祖母は亡くなる前に、何日もの間昏睡状態だったのよ。

そう言われればわかる気もするけど、
私がこの世界に来た時、
最初に滝のほとりでディアナと出会ったのも
お婆さまの魔力のせいなのかしら。
とみすずが言った。
わからないけど、それはディアナが一人で
暮らし始めて随分経ってからのことでしょう。
祖母はその時にはもう亡くなくなっていたかもしれない。
でも一人きりのディアナの友達になってくれそうな
夢食いを引き寄せたのかもしれないわね。
亡くなった後でもそんなことができるなんて。
北の孤島に水晶玉が残されてたことも、
お婆さまが使っていたものだとすればわかるけど、
恐竜が沢山いるのは何故なのかしら。
この世界は恐竜たちの楽園でもあるんでしょう。
とアイスが言った。
子供の頃、祖母が大昔の恐竜やその絶滅のことを
話してくれたのはかすかに覚えているわ。
でも私はあまり関心がなかった。
祖母は恐竜が絶滅せずに生きている世界も
夢見ていたのかもしれない。
お婆さまは異世界を作る魔法を知っていて、
あなたみたいな呪力を持っていたの?
とフミコが尋ねた。
私に異世界を作る魔法を教えてくれたのは、
祖母だったからね。
解説)
続きます。
Nov 25, 2025
滝を見に行く

二人はみすずの家を出て
滝を見に行くことにした。

湖に恐竜がいたわね。
あれでもロボットたちが来てから、
あまり見なくなったんですよ。

そうでもないんじゃない?

あれは草食なので、
刺激しなければ安全です。
彼らが水を飲み終わるまで待ちましょう。

到着しました。
水の精霊のバルのおかげで、
今では滝壺の底から夢見の水が湧いているんです。

なにか思い出せませんか。
思い出せないけど、この風景、
私もどこか懐かしさを感じるわ。

ここでみすずに出会ったんです。
夢食いのみすずも、忘れられた夢の世界の噂を聞いて、
その世界に来たいと希っていたら、
この滝のほとりに来ていたと言っていました。
ここは通路になっているような特別な場所なんでしょうか。
そうなのかもしれない。
でも別の場所から夢食いがやって来たこともあるんでしょう。
色々考えたんだけど、よくわからないの。
前にみすずやサラやフミコと一緒に
ここに来た時、フミコが
滝に向かって挨拶の呪文を唱えたんです。
そうしたら大きな虹がかかったんです。

そうなのね。
ここが特別な場所なのは確かみたいだから、
私もご挨拶の呪文を唱えてみるわ。
シモーヌは滝に向かって
呪文を唱えた。

すると突然あたりに爽やかな風が吹き抜け、
空に大きな虹がかかった。
大地が挨拶の呪文に応えているのよ。
この世界に夢見る主体がいないわけじゃない。
とシモーヌが言った。
解説)
続きます。
Nov 24, 2025
忘れられた夢の世界で

アイスとシモーヌは鏡の扉を抜けて、
忘れられた夢の世界のみすずの家に
やってきた。
あら、新しいお客様ね。
とみすずに言われている。

なんだ、ディアナじゃないの。
そんなコート着てどうしたの。
顔はそっくりだけど、
この人はディアナじゃないの。
私はシモーヌと言います。

事情を聞いたみずずは、
早速シモーヌをディアナに紹介している。
あ、この方だ。
シモーヌさんていうんですね。
鹿のフィギアに宿っていた精霊の私を
見つけてくれて、
自由に暮らせる世界を与えてくれた人。
もう随分前のことね。
フィギアのあなたの体は
今でも大事に家に飾ってあるわよ。
フミコさんに人間の姿にしてもらう時、
あなたみたいな人になりたいと
思って念じていたら、
そっくりの顔になったんです。
そういうことってたまにあるのよね。

気がついたらこの世界にいて、
昔のことを全然思い出せなかったんです。
ずっとこの世界で鹿の姿で生まれて、
自分の中に精霊が宿ったんだと思ってた。
私もあなたと、
この世界に来た夢のことは覚えていないのよ。
ふつう夢はみんな忘れちゃうしね。
それでも何故かその夢の世界は残った。
私たち夢食いの間では、
こういう世界は貴重なんですよ。
夢見る主体がいないので何でも自由ですから。
とみすずが言った。
私の記憶から消えて、
夢の世界だけが消え残った時点で、
もう私の夢とはいえないわね。
夢自体の力が世界を支えている。
恐竜がいるって聞いたけど、
それは多分その夢自体が生み出したものよ。
そんな夢見たことがないもの。
夢が消える前に、
何かが来てシモーヌさんの夢を
のっとったんじゃないの?
とアイスが言った。
魔族のみる夢に入り込む夢食いって、
聞いたことがないわ。
危険が多すぎるもの。
とみすずが言った。

そこにフミコがやってきた。
随分賑やかね。
あら、お客様?

歓談が終わり、
フミコは、ミミコを
シモーヌに紹介している。
私もこの子も魔族なのよ。
この子は未来の世界で生まれたの。
なんだか事情がややこしそうね。
あ、そこにある水晶玉は。

この水晶玉は
魔族が天気予報の占いに使うものよね。
精霊が宿っているけど今は眠っている。
見つけたのはシビルっていう夢食いで、
北の孤島で見つけたって言ってたわ。
精霊が封印されていたのを私が解放したの。
そしたら火の精霊バーンも宿っていて
火山が噴火して鎮火するのに大変だったのよ。
何か覚えがある?
ディアナと一緒にいた夢のことは覚えていないのよ。
でも幼い頃、祖母が同じような水晶玉を
使っていたのは覚えているから、
夢に出てきても不思議じゃないけど。

この家には、火の精霊バーンの他に、
水の精霊バルもいるの。
二人とも器や壺の中で眠っている。
どちらも人間の姿になれる魔法が
かかっているから会話もできるわ。
会ってみる?
精霊の願いを聞いてあげるのが
私の趣味で使命だと思ってるけど、
元素の精霊たちにその必要はないわね。
寝てるのを起こすのも悪いし、
今はやめておくわ。

シモーヌはディアナに
家の中を案内されている。
ここに棲みついてるのは
夢食いばかりだと思っていたら、
ロボットもいるのね。
あれはお隣の未来の世界から来た
工作用ロボットなんですよ。
ややこしそうな事情がありそうね。

ディアナはシモーヌを屋外に
案内している。
近くに綺麗な滝があるんです。
私がこの世界で一人で暮らしていた時、
初めて夢食いのみすずさんと出会った場所。
そこによく水を飲みに行っていた。
私にはすごく懐かしい感じのする場所なので、
もし私たちが夢で一緒に遊んでいたとしたら、
二人でそこに行ったことがあるかもしれない。
私が忘れてしまった夢を
思い出すかもしれないっていうわけね。
行ってみましょうか。
解説)
続きます。
Nov 23, 2025
シモーヌとの対話 そのに

応接間での会話は続いていた。
私みたいなことは、
異世界を生み出せる魔族だったら
みんなやっていることじゃないかしら。
さっき広場やデジャっていうお店で見かけた
フィギアの精霊たちも、
ハリーさんが魔法で人間の姿にしてあげたんでしょう。
ジョー軍曹とギルダのことね。
彼らはもともと精霊たちの世界に住んでいたのよ。
でもその世界を作ったのはハリーさんじゃなくて、
いろんな力が重なった結果だって言われてる。
リリスっていう特別な魔族みたいな人形の精霊がいて、
彼女が中心だったのは確かだけどね。
この話を始めると何時間もかかるわ。

ジョー軍曹たちの暮らしていた世界は、
魔族の呪力が単独で生み出したものじゃないな。
セリーヌさんも異世界を生み出したことがあるなら、
ご存知のように、ああいう精霊たちの暮らす
異世界には様々な力が働いている。
精霊たち自身の夢見る力やその空間自体に潜む
場の力のようなものも。
人間のみる夢の世界でも精霊たちは生きられるが、
作用している力は千差万別だよ。

さっきちょっと思ったんですけど、
セリーヌさん、鹿やフクロウのフィギアたちのために
常春の世界を作ってあげたでしょう。
私そこに行ったのよ。

ふーん。
そういえば、そんなこともあったわね。
これまでいろんな精霊の夢を叶えたから、
すっかり忘れてた。
確か、あの常春の世界は、ディアナっていう
鹿のフィギアのために作ったの。
それから、とある倉庫で、
精霊の宿ったフクロウの置物を何体も見つけて、
後から彼らをその世界に送ってあげた。

でも私自身は、その世界に行ったのは
最初にディアナと一度だけ。
女王様になりたいわけじゃないから、
精霊たちに生きる環境をプレゼントして、
あとは立ち入らない方針なのよ。
今どうしてるか気にならないの?
とアイスが尋ねた。
ディアナなら、私の家にいつもいるわよ。
フクロウたちは見つけた倉庫に保管されているはず。
この世界では動かないフィギアや置物だけどね。
それらに宿った精霊たちは自由の身。
そういう精霊たちが沢山いるの。
特定のフィギアをえこひいきしたり、
何をしてるか心配していたらキリがないでしょう。

なるほどねえ。
広場の7月初めのコスプレコンテストで優勝した
ディアナっていう女性は、確か鹿の精霊だったね。
顔立ちが君にそっくりだった。
魔族のフミコが人間の姿に変身させたと聞いてるが、
自分の顔立ちを君に似せるのが、
きっとその精霊の願いだったんだろうね。

あなた、そういう女性の顔をよく観察してるのね。
とカーミラが言った。
シモーヌさん。
私の行った「常春の世界」は、
雪山の洞窟を介して「忘れられた夢の世界」に
繋がっているの。ディアナは
自分がその世界で生まれたと思っていたけど、
常春の世界のフクロウたちから話を聞いて、
以前の記憶を少し思い出したのよ。
あなたがディアナと一緒にいる夢を見て、
その夢がなぜかいつまでも消えずに残り、
ディアナだけがその夢の中にとり残されてしまった。
その夢には、やがて様々な夢食いたちが訪れて、
ディアナも夢食いたちと親しくなって、
一緒に暮らしているの。それが現状かな。

ディアナと遊ぶ夢を見たことは何度もあるわ。
でもその夢だけが、なぜ消えずに残ったのかしら。
夢の中で夢が残るような呪文を唱えちゃったとか、
何か大事なものを置き忘れたせいかもしれない。
でも忘れられた夢を思い出すことはできないわね。
その夢の世界はかなりユニークよ。
何故か恐竜が沢山棲んでるの。
とアイスが言った。
そんな夢見たことあったかしら。
百聞は一見に如かずよ。
とアイスが言った。

アイスが呪文を唱えると、
鏡の扉が現れた。
とりあえず、
「忘れられた夢の世界」に
行ってみましょう。
二人はハリーたちに挨拶すると、
アイスが呪文を唱えて、
二人は開かれた鏡の扉の中に飛び込んで行った。

あの人なかなかしっかりしてるみたいね。
人助けじゃなくて、
精霊助けか。今時、使命感を持った
魔族がいたなんて驚きだな。
ヴィヴィアンもあんなふうだったら。
あいつは悪魔だろう。
使命感もったら怖いよ。
解説)
続きます。