Jul 06, 2013

ジェレミー・ローレル指揮「ドン・ジョバンニ」

パリ・シャンゼリゼー劇場の「ドン・ジョバンニ」。今年の4月と5月の上演。残念ながら全曲動画版は見つからないが、ちょっとぼやけた指揮者の肖像写真が固定した2時間50分の全幕録音版を聞くことができる。断片的には舞台情景の動画もあるので、どんな新演出かおおよその見当はつく。ジャルスキーのCD「甘い炎」を繰り返し聞いているうちに、この気持ちの良さは、伴奏の品格の高さに拠るところが大きいのだと気づきはじめた。ジャルスキーの歌うオペラアリアの中でこの「甘い炎(ラ・ドルチェ・フィアンマ)」が、そのみずみずしさ、感情の繊細な深さと豊かさ、装飾音符の驚異的な変容と華麗さでダントツだと思う。この絶唱を支えているのが、動画版のインタビューでもぼーっとして冴えない時代のシューベルトに似た風貌の指揮者で、髪はくしゃくしゃ,めがねがずれて目玉が大きく、だぶだぶのチノパン、2,3言データ的な発言をした後は、急き込んで話すジャルスキーにお株を取られた感じ、隣の発言に耳を傾けるほうが得手だとでもいうような様子だと最初は思った。それがいつごろからか、この人の音は溌剌とスピードがあり、歌手のメロディーの進行を確実に把握し、むしろ控えめにしかも切れ目切れ目の音の透明度がすばらしく歌手の声をしっかり乗せているのに気づいた。これほど歌いやすい伴奏はないだろうとまで思わせられる。ジャルスキーの歌い方は没入力がとても強いので、リブレットでも「すぐに相性がよいと気づきました」と語っている通りである。それ以来、ローレル指揮の曲探しが始まった。なんと、オペラは指揮する、ベートーベンの合唱秘曲「オリーブ園のキリスト」は難なくこなす。ボスーッと出てきて、あたふたと指揮台を降りて退場する、その様子が面白い。この人のモーツアルトの「ジュピター」は繰り返し聞きたくなるから不思議だ。ローレル率いるル・セルクル・ド・ラルモニーはコンサートマスター・ジュリアン・ショーバンと二人で造った若いアンサンブルだそうで、音の輪郭がぴしゃりと決まる(これはコンサートマスターの力量によるところが大きい)。メンバーは20代、30代の若手ぞろい、日本人の顔も数人混じる。バロックオペラから、モーツアルト、ベートーベンあたりまで、そして現代の新曲も演奏する。このところ、歌手の輩出が際立つと思っていたが、歌手ばかりでなく、音楽界全体が良い演奏家に恵まれ始めている。若い彼らによる音楽遺産の掘り起しが活発である。私にはいまいちのみこめない「ドン・ジョバンニ」も新演出で舞台装置はベッドが主役、半裸の歌手たちがベッドの上で枕を抱えて苦悶する。ひどい、エネルギッシュな、本音を見据えたビジュアルに驚かされる。「アルタセルセ」いらいヨーロッパのオペラリニューアルに惹きつけられている。
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