Nov 30, 2013

ターナーからの示唆

上野の都美術館にターナー展を見に行く冬まじかの秋晴れの1日。やっと自分を取り戻した気分。夏から秋にかけて充実はしていたが忙しなかった。それでいて孤独だった。孤独はいいけど、友人がいない、という寂しさにちくちく刺されていた。ターナーをじっくり見て、自分の現状を肯定することができた。 13歳ごろすでにずば抜けた精密なデッサン力で父親を驚かせた。建築学を学び、壮大な石の宮殿、教会、遺跡、にひとりでたじろぐことなく向き合った。このひとは生まれつきの才能で自然と歴史に向き合っている。パトロンの貴族の邸宅に逗留させてもらって、この城のための絵を頼まれ、難破船の大きな油絵を差し出したがパトロンの気に入らず、完成させて飾られることはなかった。灰色の海が実に美しい。黄色気違いだったそうだが、灰色のほうがもっと美しい。この展覧会中最も引き込まれた絵だったが、絵葉書やカタログでは平凡に変貌してしまっている。青年時代の美貌に比べ、晩年のクロッキーのみすぼらしさ。絵は形をなくし、ますます存在感を増しているのに。現実の人間は醜く滅びていく、その反比例として生み出す美が冴え返る。 中部フランスのロワール川を遡るスケッチが美しいことは以前から知っていたが、こんどその全貌をつかめて満足している。モーツアルトがそうだったように、ターナーも人間のシステム、社会を越えてその視線が遠くのほうへ向かっていく。神ではなく、人間の意識が研ぎすまされていく過程を一直線に追っかけている。芸術家たるもの、それが王道なのだろう。
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Nov 28, 2013

レイナルド・アーンのオペレッタ「モーツアルト」

アーンが台本作家サッシャ・ギトリーに依頼されて作曲した3幕の小オペラ。作曲家モーツアルトがパリに滞在した数日間、という架空の設定で、初演(1925年)のモーツアルト役はギトリー夫人でソプラノ歌手のイヴォンヌ・プランタンが歌ったそうだ。EMI版の2枚ディスクのCDを運良く借りることができて、ここ半月ほどこればかり聞いている。パリとモーツアルトはあまり似合わないが、ギトリーが妻に歌わせるため新作オペラの題材に思いついた。フランス語がきれいで、科白を言うだけの登場人物も半分。フランス語の会話は歌を聴いているのとさして変らない。意味はあまりはっきりしないが、モーツアルトがクラヴサンを弾いて、サロンの女性たちと合奏するシーンは美しい。プルーストの「失われた時」に出てくるいたちの民謡のフレーズがドッキリさせられる。モーツアルトのフレーズもたっぷり盛り込まれていて、明るく可愛らしく、モーツアルトの音楽がどれほど世の人々の気分を潤したか、あらためて考えさせられる。最後はこのモテモテのイケメン作曲家が惜しまれながらパリを去る、という終幕。別にモーツアルトでなくともよさそうだが、モーツアルトでなければだめでもあるのだろう。他愛ない話し。Youtubeで上演舞台の一部が見られるが、これはピント来ない。CDを聞いているほうがずっとよい。ただ、アーンという人はお父さんがドイツ人だそうで、母はスペイン系ヴェネゼラ人で、フランス人の血はない。30代でフランス市民権をとった。10代から作曲に秀でて、コンセルバトワールでマスネーの愛弟子だったそうだ。このオペレッタを聞くと、ウイーン歌劇の匂いがする。時代も血筋もそんな土台があるに違いない。歌曲「クロリスへ」の無垢さ、バロック的な明るさもフランスを飛び越え、国籍を超えて共感を呼ぶ何かがあると思う。いずれこのオペレッタをローレルが指揮すればいいなと思う。演出と科白を今日的に変貌させるのはのはフランス人のお得意芸だから。繊細で、心深くて、子供っぽくて、やや蓮っ葉な、フェミニンなモーツアルトが生れてほしい。モーツアルトが貧窮の中で亡くなって共同墓地に運ばれていったという話しがずっと記憶に沁みついている。蝶々のような人だ。
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Oct 21, 2013

第十七回 朱夏祭

酒井弘司氏主宰の句誌『朱夏』の第十七回 朱夏祭 が昨日、相模原市橋本の「ソレイユさがみ」で午前10時から開かれ、そのプログラムの最後に「余白句会とわたし、そしてフランス現代詩のいくつかの短い詩」と題して、お話しをさせていただきました。今年27つ目の台風が接近中であいにくの雨でしたが、午後2時にうかがい、1時間の予定で、用意した原稿を片手に、久しぶりに俳人の方々と楽しいひと時を過ごさせていただきました。1991年6月16日の第5回余白句会に清記人としてはじめてうかがい、第6回からメンバーに加えていただき、それから昨年(2012)4月21日の第100回記念句会まで、数えてみれば、21年の間、お世話になったことになります。もっとも、私は75回以後は句会に足を運ばずにおりまして、100回記念句会には久方ぶりに投句したのでした。講演中、句会でご一緒した方々のお姿が浮かび、楽しい記憶の旅をさせていただきました。酒井先生、句会のみなさま、ありがとうございました。
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Oct 11, 2013

第19回クロコダイル朗読会 「漂泊する声、ポエジーの港」

10月14日(月)体育の日 12時半開場 1時開演 ライブハウス「クロコダイル」 JR渋谷駅より徒歩10分 渋谷区神宮前6丁目18-8 ℡03-3499-5205 チケット2000円(ワンドリンク付き) 出演 石川厚志、森本孝徳、八潮れん、オルファ・ベルーマ、渡辺めぐみ、阿賀猥、浜江順子、有働薫、石田瑞穂、佐川亜紀、池井昌樹、他 お問い合わせ042-582-0938(浜江) 朗読の持ち時間は1人10分です。有働は「ジャンヌの涙」と「サヴィニオーーまぼろしのオペラ」の2篇を読みます。
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Sep 19, 2013

ハイドンの小オペラ「リンフェデルタ・デリューザ」

例によってYu-tubeのバロックオペラ、聞き出したらやめられない、晴れ渡った秋の午前の1時間40分。ローレル+ショーヴァン・アンサンブルの快速運転。切り刻むような硬い弦の音にオーボエとハープシコードが載って、歌手の歌いだしのきっかけがきりっと決まる清潔感が楽しい2時間。人間たちのドタバタ・ハチャメチャが最後にはめでたしめでたしに収束する。登場人物たちがこぞってくそ真面目なだけに、シリアス感も大。ハイドンのオペラとは信じられない。ローレルは劇が始まる前に多く映される。「甘い炎」の時の髪はくしゃくしゃ、ズボンはずぼずぼのぼやけた印象は完全に払拭され、きちんと刈った短い髪、縁なしめがねがきらっと光って、シューベルトがもう少し幸福だったらこうだろうと思うような、きりっとした表情がすばらしい。ショーバンが弦を鋭くまとめる。このコンビ、現在最高だと思う。ああ、楽しかった、また明日聞いてしまいそう。
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Sep 16, 2013

『秋の日本』、『お菊さん』

コベールの講演の演題に合わせて、町田図書館からピエール・ロチの2冊を借りた。『秋の日本』は角川文庫1953年刊、『お菊さん』は講談社日本現代文学全集15外国人文学集1969年刊、『お菊さん』のほうは係りの人によれば、「古い出版なので、町田図書館にはなくて、取り寄せ」てくれた。図書館の貸し出しシステムは懇切丁寧である。新宿三省堂で岩波文庫を買おうとした経緯を話すと、いっそう親身になってくれた。図書館ありがとう。 『お菊さん』は仏軍艦が長崎ドックに修理に入っていた2ヶ月ちょっとの間の話。明治18年の話である。外国人と日本女性との恋愛といえば、まず頭に浮かぶのが歌劇『蝶々さん』だろう。『お菊さん』も事情は似ていて、まだ開国まもなく西洋的な個人が日本では成立しておらず、個人対個人の恋愛は成立しがたい状況だったろう。いわゆる性の仲買人といった人物を通しての人身売買である。金を払い、親を説得して若い女性をその期間だけ独占する。面白いのは、最初に斡旋された女の子が気に入らず、立ち会った友人が眼を留めた付き添いのお菊さんを「注文」したといういきさつ。その経緯のため、同棲中も友人とお菊さんの間の関係に嫉妬に苦しむという、大変込み入った感情まで書き込んであり、そのような事実に対するまっさらな態度が、文学としての価値を高めていると思う。関係としては日本の性風俗売買システムに頼りながら、仏海軍将校=仏軍艦艦長としての品位は貶めていないというところか。日本官憲の摘発に会い、居直ってすごむ場面も掬い取っており、さいごは出航を関係者一同で見送ってもらうほど納得ずくで円満に別れるのである。 『秋の日本』は同時期の日本旅行記。京都、東京、日光の見聞記。これも『お菊さん』の作家らしく、観察が細やかで、事実の把握が実に正確詳細。日本人さえ啓発されっぱなし。びっくりしたのが訳者の名前。わが恩師村上菊一郎、吉氷清先生の共訳である。吉氷先生宅に一泊して秋の茸狩りをした記憶がよみがえった。先生、お世話になりました。村上先生のご本は数冊愛読している。チャンチンの若木を分けていただいたのを、この家で40数年、5月のピンク色の若芽と秋の金色の紅葉をしみじみと堪能したが、数年前に枯れた。寿命だったと思う。村上先生、わたくしはまだフランス詩にとっついています。
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Sep 09, 2013

マルク・コベールの東京日仏会館講演

 コベールの小説『骨の列島』(洪水企画刊)がパリのコベールに届いたのとほぼ入れ替えに、東京日仏会館でフランス国立日本研究センター主催の国際シンポジウムが9月6,7の両日開催され、マルク・コベールも発表者の1人として講演しました。テーマは「日本に関するフランス語小説の現在、お菊さんコンプレックスは乗りこえられたか?」でした。『お菊さん』は明治時代の日本に滞在した仏作家ピエール・ロチの名作と評価されている小説です。翌8日に渋谷のレストランで洪水企画の池田康さんと共にコベールにインタビューを試みました。『骨の列島』成立事情を詳細に聞くことができました。この会談の要約は詩誌『洪水』の次号に報告される予定です。
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Aug 25, 2013

マルク・コベール『骨の列島』発売

1964年生れのフランスの詩人マルク・コベールの異色小説『骨の列島』が本日発売されました。洪水企画(ネットでブログをご覧ください)からの<詩人の遠征シリーズ>の第2弾です。新書版ほどの縦長サイズ、詩篇も含めて全207ページ、アルバトロスをイメージキャラにした清新なセンスの装丁は巌谷純介氏です。タイトルの『骨の列島』は様々な経緯のすえ、編集の池田康氏の命名に落着きました。かばんに入れて、仕事の合間に、駅ホームの休憩ボックスでも、手軽に読むことができるでしょう。いったい日本に来た外国人は日本の風土、日本人にどんな皮膚感覚を持つのだろうか? コベールの日本観は今までのこの種のややヒステリックな感想とは一線を劃していて、1フランス人として、30代の若者として、平常心と皮膚感覚をそのままに、この大いなる異文化への率直な遠征を試みています。フランスでの日常に帰着した現在、椎骨を並べたようなはかない国土の上に高度な文化を築いてきた日本人への懐かしさが消え去ることはないようです。
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Aug 14, 2013

My affections to Jaroussky

 もしジャルスキーがフランス歌曲のCD を出していなかったら、装飾音符の技巧が見事なバロックアリア歌手とだけの認識だったろう。CD 『OPIUM』をいやになるほど聞き続けることで、私のアフェクションは老い猫のスーと同じ位置を占めるようになった。 そこで:ジャルスキーの歌う楽曲ナンバー5:
①レイナルド・アーン+ヴェルレーヌ詩「白い月」
②レイナルド・アーン・+テオフィル・ド・ヴィオー詩「クロリスに」
③JCバッハ+メタスタジオ詩「甘い炎」
④レイナルド・アーン+ヴェルレーヌ「牢獄から」
⑤ヴィヴァルディ歌劇”Andromeda liberata”より「いつも太陽は(ペルセオのアリア)」
次点⑥エルネスト・ショーソン+ルコント・ド・リール「はちすずめ」
①は絶対美。他のどの歌手より完成度が高い。抽象度と言い換えてもいい。楽曲の完璧な完成度に息吹を吹き込む若い声質が魅力。
②は個性美。ジャルスキーの右に出る歌はいまのところない。「ぼくにぴったりです」と本人が言うとおり、デビューから間もないジャルスキーの初々しさ、素朴さが絶妙。やがて大歌手になってこのみずみずしさは失われるのだろうか。
③はオケの力。ローレルの控えめかつ超快速特急のような疾走感がたまらない。ローレルさんいいね!頼りにしてまっせ!
④は透明美。地上のわれわれにある瞬間に奇蹟的に見えるクリスタルな世界。ルミューのコントラルトの暖かなふくよかさも捨てがたく、甲乙つけがたし。
⑤は地中海天使スピノージのバイオリンが乗せる照らされた内面性。繁栄の極みの憂愁。Look at me! と叫ぶ兄貴。歌唱自体はチェンチッチのさらに内面的な声質のほうが適しているかもしれない。
⑥はこれも、親しい兄貴デュクロのピアノがリードしている。ジャルスキーはほんとに共演者に恵まれている。共演者の音楽に乗って自分に没入していく。加えてマナーの良さが優れた才能を引き寄せるのだろうか。うらやましい。これからもこれらの音楽家とどんどん共演してほしい。練習シーンを見るとかなりクサイ表情で口をゆがめて、指揮者に文句をつけていることがある。持ち前の才能を恃む自信ときちんと勉強してきたという自負(譜面主義)で完全武装しているなという感じ。
それが無いと世間は渉れまい。
コベールの小説『骨の列島』は今月末刊行です。
5つのエピソードのうち「ノゾキとチカン」が出色です。
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Aug 01, 2013

お盆休みのとば口で

   天童大人プロデュース 詩人の肉聲とコトバとを聴く!
 Projet La Voix des Poètes 詩人の聲 第986回

           有働 薫の声
 書き続け、読み続ける詩

1. 白無地方向幕(近作)
2. 兄というもの(近作)
3. ターンテーブルの月(新作)
4. サヴィニオ――まぼろしのオペラ(新作)

5. 水に揺れる影(及川恒平)

6. ジャック・ルボー氏に(マルク・コベール)
7. 夕風――六月の歌(マルク・コベール)
8. 影とともに(マルク・コベール) 他
 詩人マルク・コベールの日本滞在中の経験を素材にした小説『骨の列島』の日本語版が洪水企画から今月末刊行の予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

2013年8月12日(月)開場17:00 開演17:30(夕方5時半です)
     イスパニカ Hispánica 溜池山王教室

    〒107-0052 港区赤坂2-2-19 アドレスビル1F
        ℡080-4119-9711(神田)
   地下鉄銀座線・南北線溜池山王駅8番出口向い アドレスビル

   入場料 予約 大人2,700円 当日3,000円
         学割1,500円(学生証呈示)
   ご予約は天童Mobil090-3696-7098まで
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Jul 12, 2013

バイオリン独奏者のいないバイオリンコンチェルト

昨日ユーチューブをうろうろしていて出くわした音楽。ローレル指揮のモーツアルトにシメシメとクリックしたが、曲が進んでいるのにいっこうにソリストの姿が映らない。溌剌としたメロディーは聞こえているのに。40年も前に浴びるほど聞いたパールマンの弾く誰でも知っている3番。(このひとは足が悪いので確か指揮者の横で椅子に座って演奏したと思う。)気のせいか、パールマンよりさらに透明度が高く、軽い。無重力空間で宇宙飛行士の耳に聞こえるのではないだろうか。晴れ渡った青空。とにかく曲が速い。前から3列目までほどのお客さんと指揮者しか映っていない。ソリストを出せーとじたばたしているうちに、ピンと来た。これはあいつだな。きっとコンサートマスターが自席を立たずにソロパートを弾いているのだ。先日ビゼーの「真珠採り」のアリアを仰向けに寝て歌う日本人テノールを画面で見て、いじわるな演出だと思ったが、歌手の中島康晴さんは難無く歌っていた。奥行きのある美声だ、それを思い出した。ローレルとショーヴァン、二人は目下30代の演奏家だ。そしてこんなドラマをさらりと仕組む。つまり、彼らは自分たちのレベルで音楽を作る。自分たちに合わないものは捨てる。自分たちの気持ちを表現する。ローレルは指揮者やソリストは別格でメンバーは彼らに従えなどつゆほども思っていない。1つの曲をメンバー全員で持ち場を果たして創りあげる。1楽章が終わると、指揮者が微笑む。みんなも楽しくてしょうがないという様子。ただしこの映像ではメンバーはほとんど映されていないが。音のユニゾンに少しの乱れもなくぴたっと決まる。この人たちは音楽をどんどん変えていくだろうと思う。聞いているほうも楽しくてしょうがなくて、もう終わっちゃうのかと名残惜しい終わりのワンカットでこの二人が微笑みながら握手をする映像が一瞬だけあって、いっそう楽しかった。
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Jul 09, 2013

これはたいへん、コベールの『骨の列島』初校

洪水企画からコベールの小説『骨の列島』初校が出た。これが問題点続出で、眩暈がしそう。訳の過程で何度も放り出した難物である。ただ、いろいろな問題点、欠点を超えて、現在この小説の魅力ははっきり私の中に定着している。ひと言で言えば、「生き生きしたてざわり」ということだろう。なんとか、日本語の読み物として読者の心に入っていけるように整えたい、その努力にこの夏を捧げよう。
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Jul 06, 2013

ジェレミー・ローレル指揮「ドン・ジョバンニ」

パリ・シャンゼリゼー劇場の「ドン・ジョバンニ」。今年の4月と5月の上演。残念ながら全曲動画版は見つからないが、ちょっとぼやけた指揮者の肖像写真が固定した2時間50分の全幕録音版を聞くことができる。断片的には舞台情景の動画もあるので、どんな新演出かおおよその見当はつく。ジャルスキーのCD「甘い炎」を繰り返し聞いているうちに、この気持ちの良さは、伴奏の品格の高さに拠るところが大きいのだと気づきはじめた。ジャルスキーの歌うオペラアリアの中でこの「甘い炎(ラ・ドルチェ・フィアンマ)」が、そのみずみずしさ、感情の繊細な深さと豊かさ、装飾音符の驚異的な変容と華麗さでダントツだと思う。この絶唱を支えているのが、動画版のインタビューでもぼーっとして冴えない時代のシューベルトに似た風貌の指揮者で、髪はくしゃくしゃ,めがねがずれて目玉が大きく、だぶだぶのチノパン、2,3言データ的な発言をした後は、急き込んで話すジャルスキーにお株を取られた感じ、隣の発言に耳を傾けるほうが得手だとでもいうような様子だと最初は思った。それがいつごろからか、この人の音は溌剌とスピードがあり、歌手のメロディーの進行を確実に把握し、むしろ控えめにしかも切れ目切れ目の音の透明度がすばらしく歌手の声をしっかり乗せているのに気づいた。これほど歌いやすい伴奏はないだろうとまで思わせられる。ジャルスキーの歌い方は没入力がとても強いので、リブレットでも「すぐに相性がよいと気づきました」と語っている通りである。それ以来、ローレル指揮の曲探しが始まった。なんと、オペラは指揮する、ベートーベンの合唱秘曲「オリーブ園のキリスト」は難なくこなす。ボスーッと出てきて、あたふたと指揮台を降りて退場する、その様子が面白い。この人のモーツアルトの「ジュピター」は繰り返し聞きたくなるから不思議だ。ローレル率いるル・セルクル・ド・ラルモニーはコンサートマスター・ジュリアン・ショーバンと二人で造った若いアンサンブルだそうで、音の輪郭がぴしゃりと決まる(これはコンサートマスターの力量によるところが大きい)。メンバーは20代、30代の若手ぞろい、日本人の顔も数人混じる。バロックオペラから、モーツアルト、ベートーベンあたりまで、そして現代の新曲も演奏する。このところ、歌手の輩出が際立つと思っていたが、歌手ばかりでなく、音楽界全体が良い演奏家に恵まれ始めている。若い彼らによる音楽遺産の掘り起しが活発である。私にはいまいちのみこめない「ドン・ジョバンニ」も新演出で舞台装置はベッドが主役、半裸の歌手たちがベッドの上で枕を抱えて苦悶する。ひどい、エネルギッシュな、本音を見据えたビジュアルに驚かされる。「アルタセルセ」いらいヨーロッパのオペラリニューアルに惹きつけられている。
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Jun 20, 2013

ヴィンチの「アルタセルセ」、ターンテーブル付きオペラ

 昨2012年11月2~10日フランス北東部の町ナンシィで上演された18世紀バロックオペラ「アルタセルセ」全3幕がYoutubeに投稿されている。1幕ずつ3回にわかれているが全幕見ると4時間近くになる。インターネットのライブストリーミングでの鑑賞でよい所は、開演前の舞台裏の様子や歌手たちの会話、オーケストラの音合わせなど、上演にまつわるもろもろの様子がさまざまに映されること。親切な番組だと、主役の歌手のインタビューや、プロデューサーの意気込み、指揮者の考えなどまであらかじめ取材してある。客席の顔も時折アップで映される。このオペラでは、そういった現代の上演形式を逆手にとって、すべてをオペラ全体に取り込んでしまって欲張りである。衣装をつける前の、白塗りも半端なガウン姿の主役たちを準備中の舞台正面に呼び寄せて挨拶をさせたり、男性歌手が女性のドレスをつけるために上半身はだかになるのを後ろから写したり。劇の世界への導入へわくわく感を盛り上げる。タイトルはペルシャ皇帝アルタセルセ(アルタクセルクセス)だが、実質的な主役はその臣下アルバーチェ。子供のころからいっしょに育ったという設定の皇帝の息子と側近の息子との友情物語でアルバーチェは死刑寸前で救われてめでたしめでたしで幕。筋書き自体たあいないのは承知の上で、この4時間をどうやって人間ドラマに盛り上げるか、4時間をあきさせないのが作曲家の腕前。記憶に残るメロディーがいくつもある。ことに第1幕最後のアリア「Vo solcando(わたしは水を切って進む)」を歌うアルゼンチン出身のカウンターテナーファジョーリの魅力が十分に発揮されている。この人はハイCとかの特技はあまりアピールしないが、ドラマ性、人間性が純なパワーとして一身に凝縮していて安定感がある(1981年生れ)。5人の若手スターカウンターテナー競演が売り物の一つだが、ファジョーリの他は女装の2人がなんとも奇妙な美しさを振りまく。アルバーチェの妹で、皇帝の恋人セミーラ(バルナ=サバダス1986生れ)、皇帝の妹で、アルバーチェの恋人マンダーネ(チェンチッチ1975生れ)、この二人がしかしドラマのもつれた筋書きをほどく役を果たしていく。衣装の奇妙さは今回の上演のいちばんの魅力で、セミーラは第1幕では肩から羽の生えた真っ白な白鳥の姿をしており、第2幕では孔雀姿のロココの姫君、第3幕ではわっかの入ったロングスカートの金色の鳥で幸福な結末を予想させる。ただし第1幕の白鳥姿の衝撃の後だけに2番煎じの感が否めない。もう一回画期的な変身が欲しかった。ただし、3幕でのセミーラの出番が少なくて、衣装も後回しにされたか。デザイナーの意欲も台本には勝てない? 第2幕の宮廷内の駆け引き場面は歌手たちはフリルずくめの白一色のルイ14世風衣装で権謀術数が乱れ飛ぶ。舞台の中央にターンテーブルがあり、主人公たちが悩み苦しむ場面はこのテーブルに載ってぐるぐる廻るというのがユーモラスかつ妙にレアリスティックな心理学的演出。寝巻き姿の背の高いジャルスキーが頭を抱えてこのテーブルの上に2度も3度も倒れこんでぐるぐる回るのが父を殺された王子の茫然自失をうまく表現している。このテーブルは円盤ではなく正方形で、その1端に暗殺用の毒杯が置かれるのも印象が深い。正月明けからずっとこの最新演出オペラにとりつかれてデスクトップのパソコンを覗き込みっぱなしだった。あっという間に4時間が過ぎてしまう。毎日家に居ながらにしてオペラ三昧とは、王様だってうらやましがるだろう。18世紀当時にはオペラ後進国だったフランスがヨーロッパの財産としてグルノーブルなど中堅地方都市での上演も奨励しているそうだ。男性歌手は実力と個性に突出した若手が各国から集められ、表情を塗りつぶした女性たちはすべて制服の裏方スタッフで、ともすれば歌手たちに集団で干渉して劇の進行を微妙にコントロールしようとするのが面白い。舞台袖の暗闇の中で演出家が舞台上の演技を見て笑っているのがフランスっぽく余裕がある。
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Jun 07, 2013

OPIUM と ALCOOL

アポリネールの詩集『アルコール』のアルコールという言葉の含む意味がいまいちすっきり飲み込めていなかったのですが、コベールの小説『骨の列島』(背骨列島改め)をくりかえし読んでいて、ああ、そうなんだ、とすとんと胸に落ちたのは、ごく最近のことです。日本女性の恋人とのコミュニケーションの困難さを、氷はたくさん入っているがアルコールのほうはわずかしかもう残っていないウオッカのグラスに例えているくだりで、アポリネールの意図のほうにも思いが廻ったのでした。もちろん詩集の冒頭の詩「地帯」の最後には「君の命のように燃えるこのアルコールを」というフレーズがあって、詩集のタイトルのなぞを明かしているのでしたが。アポリネールもそうやって生き、コベールもそしてCDのタイトルを『OPIUM』(阿片)とした若いカウンターテナーも、揮発性の高いアルコールを飲みほすように現在を酔い、生きているのだと思うと、わたしたちの一瞬はいのちの水なのだともういちど気が付くのです。
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May 29, 2013

コベールの詩と小説を読みます

天童大人プロデュース 詩人の肉聲とコトバとを聴く!
 La Voix des Poètes 詩人の聲 第953回 有働 薫の声

   詩人マルク・コベールの作品を読む

マルク・コベールの日本滞在中の経験を素材にした小説『小骨列島』の日本語訳が洪水企画から近刊の予定です。その一部と日本滞在中の短い詩2篇および帰国後の長詩1篇を読みます。他に近く思潮社から刊行予定の現代詩文庫に収録する予定の自分の未刊詩篇11篇もあわせて声にします。ぜひご来場ください。

2013年6月7日(金)開場18:30 開演19:00
    ギャルリー東京ユマニテ(京橋)
     〒104-0031中央区京橋2-8-18昭和ビルB2
     ℡03-3562-1305
     メトロ京橋駅6番出口徒歩1分
   入場料 予約 大人2,700円 当日3,000円
         学割1,500円(学生証呈示)
   ご予約は北十字舎 ℡03-5982-1834
           Mobil090-3696-7098

  協賛 (株)力の源カンパニー
助成 公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団
           ______________
マルク・コベール:1964年ニース生れ。アンジェ大学教授。高等師範学校卒。フェラーラ、大阪、名古屋でフランス語を教える。コプトの詩人ジョルジュ・エナ研究。1993年初来日。詩集『60個のキス』(2007)、『ディエップの鰊』(2011)他多数。
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May 07, 2013

マルク・コベールの小説『背骨列島』の翻訳原稿を入稿しました

ようやくコベール氏の『背骨列島』(「小骨列島」改め)の翻訳修正が終わり、池田康氏の洪水企画に入稿しました。同社の《詩の遠征》叢書の第2弾としての刊行が予定されています。コベール氏本人とも連絡がつき、出版許可をもらいました。大変喜ばれています。6年間の日本滞在から生まれた力作です。あとは原書フランス語版の版元のファイヤール社に挨拶する仕事が残っています。
早くも6月7日(金)の夜、東京ユマニテにてこの小説の一部分と、コベール氏の日本滞在中の短い詩2篇と、帰仏後の長詩1篇を読む予定です。タイトルはそれぞれ、「夕風」、「ジャック・ルーボー氏に」、「影とともに」です。どうぞご支援のほど、お願いいたします。
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Apr 26, 2013

ビールで乾杯、春を楽しみました!

駒込チャペルでの小さい公演が無事に終わりました。皆様のご支持ありがとうございます。
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Apr 03, 2013

Voix des Poetes シリーズに出演します

天童大人プロデュース 詩人の肉聲とコトバとを聴く!
   La Voix des Po*tes 詩人の聲 第933回
  有働 薫の声
春の声を聞き、久しぶりにお目にかかります。テキストは目下編集中の思潮社現代詩文庫収録予定の未刊詩篇15篇と、昨10月ふらんす堂から刊行のエッセイアンソロジー『詩人のラブレター』から第二部16篇です。

2013年4月25日(木)開場18時 開演18時30分
    東京平和教会駒込チャペル(JR駒込駅下車)
     東京都豊島区駒込1-28-8
     ℡03-5978-5454
   JR山手線駒込駅東口より徒歩1分
   地下鉄南北線駒込駅3番出口より徒歩2分
     入場料 予約 大人2,700円 当日3,000円
        学割1,500円(学生証呈示)
    ご予約は北十字舎へ ℡03-5982-1834
            Mobil090-3696-7098
  協賛 (株)力の源カンパニー
  助成 公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団

どうぞよろしくお願いいたします。ご住所をメールいただければ、地図の付いたチラシをお送りします。 
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Feb 21, 2013

谷口謙氏の詩業

原稿依頼を受けて正月過ぎから23冊ある谷口謙さんの詩集のほとんどと、蕪村研究書2冊を読み通した。谷口さんとは2002年度『詩学』新人賞を受けられて以来だから、10年を越えるご厚誼をいただいている。詩は平明闊達、京丹後市大宮町の名誉町民でいらっしゃるお医者さんである。詩もよかったが、今回かなり大部な蕪村研究を忍耐を持って読み込んで、かなり手ごたえがあった。自分にとても栄養になった。原稿は8分どおり書けたつもりだが、それに伴う収穫の豊かさにびっくりしている。その1つが、上野の博物館で開催中の『王義之展』の展示の中ほどで突如、蕪村の描く『蘭亭曲水図屏風』に出くわしたことで、あとでパンフレットを見たら、この屏風の展示期間は後期のみで、もし早いうちに見に行っていたら、出会わなかっただろうとわかって、これまたびっくりした。《呼ばれて見に行った》気がする。蕪村の筆致はきわめて丁寧で古典的。この古代中国の43人の詩人たちを当時の衣装でイメージしてきちんと描いている。小川の傍に寝そべるどの詩人も明るい寛いだ表情をしている。楽しそうだな、とつぶやきも出るほど。その後、自宅に大きくて重い和綴じの『蕪村画集』があったのを思い出した。これも先年母がなくなり実家が解けた時にたまたまわたくしの手元に来たものである。谷口さんによれば、「蕪村は俳句は持ち出しで、画家としてのほうが有名だった」。ともかく蕪村という人はきわめて多面体、複雑な人格の人だったようだ。
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Feb 07, 2013

ジャルスキーのCD「Opium」を聴く

LP,CD以後に音と同時に映像を見ることが出来るようになったのは時代の恩恵だろう。YouTubeで録音の実況を断片的ながらのぞくことができるので、カメラの意図を差っ引いてもより身近に音楽家の体温を感じることができる。あるいは演奏中の駆け引きのようなものも垣間見られて面白い。ジャルスキーの歌うメロディーフランセーズではピアノのジェローム・デュクロの表情が楽しい。リサイタルに出かけて生で聞いてもこれだけの接近した映像は見ることはできないので、伴奏者が歌い手の声をいかに担っているかが直に伝わってくる。この歌手の特徴は前奏が響きだすやいなや、ただちに曲中に没頭していくことで、どんな小曲の場合も、大ホールでのグランドオペラのアリアの場合も変らない。自分の歌がこれらの同伴者たちの伴奏によってはじめて成り立っていることを本能的に知っているという素振りだ。それがフォーレのピエ・ジェスのソロを謙譲な美しさに満たし、もうこれ以上のこの曲を聴く必要はない、至上のものとまで思わせる。そしてオーケストラのメンバーも伴奏しながら一人一人魂を奪われているような様子をしている。伸びやかで華やか、そして深い息接ぎ。曲に魂を吹き込むという、曲と自分が融合していることがこれほどはっきり見て取れる歌手はめずらしい。CDで音だけ聞いていても、ユーチューブで見た演奏にまつわる映像が見えていて、いっそうライブな音楽として受け取ることができる。
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Feb 01, 2013

現代詩花椿賞30回記念アンソロジーの刊行

発行日は昨年12月6日の日付けですが、送付を受け、開いてみることが出来たのは今年に入ってからでした。亡くなった方は除いて24人の受賞詩人たちの昨年7月末時点での書き下ろし作品1篇からスタートしているのが魅力です。受賞作以後の作品活動が気にかかるからです。化粧品メーカー資生堂のPR誌である『花椿』はファッション、デザイン面が先駆的で、このアンソロジーの装丁にもその迫力を見ることが出来ます。よい1冊だなと感じるのはそのおかげも大きいでしょう。私の場合で云えば、ますます自己に徹すること以外に方法はないと考えています。言葉だけによる自己を存在感あるものとしてどうやって呈示できるか、勝負どころだと思っています。
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Jan 12, 2013

新年おめでとうございます

天童大人プロデュース 詩人の肉聲とコトバとを聴く!
    La Voix des Po*tes 詩人の聲 第880回

有働 薫『詩人のラブレター』(ふらんす堂刊) を三たび声に乗せる

  「アバンギャルドは常に偉大なクラッシックを振り返るだろう。」 ――秋山基夫『現代詩手帖』2012年12月号 アンケート今年度の 収穫より
 「詩はローカルでありながら世界的でありうることを改めて感じさせる。」 ――中本道代『現代詩手帖』2013年1月号 詩書月評より

  2013年1月22日(火)開場18時半 開演19時
      ギャラリー華(広尾)
   〒106-0047港区南麻布5-1-5
   地下鉄日比谷線「広尾駅」3番出口六本木方面徒歩5分
    日赤病院下「分とく山」隣り電話BOX奥
     ℡03-3442-4584
     入場料 予約大人2,700円 当日大人3,000円
      学割1,500円(学生証呈示)
     ご予約は北十字舎へ
℡03-5982-1834 Mobil090-3696-7098
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