Jul 30, 2016

モーツァルトを否定するグールド

多くも少なくもなく
ぱちっと決まっている
まるで満月のように
満たされて
生きることはこのようでありたい
このようでありえる

グールドが最も愛した「ゴールドベルク変奏曲」
モーツァルトを許しがたいと言ったグールドは
敬愛するバッハの曲のうち最もモーツァルト的な
この変奏曲を死の直前に全身全霊を賭けて弾ききった
(弾き終わったときのぐったりと魂の抜けた表情)
グールドがバッハの中の最もモーツァルト的な
音楽を自分のものと感じ取っていた証し

ある伯爵付きの若い音楽家が
伯爵の眠れない夜々のために心をこめて弾いた
(若い彼にはかなり難しかった)
優しくしみじみとしたアリアと30のバリエーション
生きていくいのちの労りに満ちた音楽
山あいの岩清水が微かな水音を立ててさいしょに流れはじめる
瑞々しいいのちが生れてくる瞬間

グールドがゴールドベルクになり
バッハが伯爵になり
ひとりひとりの仕切りが取れて渾然と溶けあって流れ出した
永遠の音楽

そしてそれは風雲児モーツァルトへの
時を超えた心遣い
モーツァルトを嫌いなのではない
もっと激しい 許しがたいのだと

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