Apr 12, 2007

《リリス》に再会――カーレン・ブリクセン『アフリカ農場』

「アウト・オブ・アフリカ」というタイトルでアメリカ映画にもなったことのある、デンマークの作家の大部な著書。1914年から17年間のアフリカ・ケニアでの農園経営者としての経験を書いたもの。ケニアの作家の中には強く反発する人もいて、わたしもどちらかといえば、正義と文化は白人側にありという尊大な態度が鼻に付く。だが、それにもましてこのデンマーク女性のアフリカへの思いの深さ、封建荘園領主じみた夢の国実現への情熱には圧倒される。どこの国の人間であれ、地球上に自分の夢見る国を実現したいという気持は究極の人生の目標になりうるだろうから。そして名訳とされる渡辺洋美の解説によれば、ブリクセンは、渡り鳥に例え得るという。農園が没落してデンマークに帰ってから作家として名声を得た。その果てのない情熱と気力をまるで伝説の「リリト」のようだと言っているのに、びっくりした。第4詩集『スーリヤスーリヤ』でわたしは「母はリリスといった」という詩を書いている。リリス(又はリリト)は聖書以前に存在した伝説で、アダムの妻で魔女。リリスが去った後、イブが後妻となったという話は、日本人には耳新しい話で、最初にこれを知った時にはぎょっとしたものだ。観念としての典型がこのように崩れていくのは面白いと思う。リリスという女(というよりメス)はアダムをしのぐ好奇心の塊で、天国を開く言葉を手に入れてアダムを捨てて飛び去ったというのだ。「しょうがないわね、あんたなんか、トロくて相手になっちゃいられないわ!」というような按配だったかも。リリスは鳥のイメージで、あくなき精力、精神力の強靭さの持ち主にかんじるあの、「うんざり感」を体現する。「自分の理想を実現しようと他人の人生を利用しようとする者の」帰結と解説者は言うが、それは究極の人間の希望ではないだろうか。ヨーロッパ人のほうが、先にその人間の本音にたどり着き、その場をケニアに求めたということなのだろう。ブリクセンはそのパイオニアであり、さらに女性であったゆえに「リリト」とよばれ、人々からうんざりされたのだろう。
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