Mar 25, 2006

ル・クレジオ『パワナ』

ル・クレジオ『パワナ』菅野昭正訳、集英社1995刊を読んだ。 1月29日、東京外語大のセミナーで初めて見たル・クレジオ氏は、長身で金髪、端正な風貌で、例えば軍服を脱いで居間で寛いでいるイギリス軍将校といった感じだった。戦闘的ではなく、父祖以来の職業軍人の職にそのままついているといった感じ。自身、以前に「ぼくのまわりにあるのは、絶えざる戦いの感情です」と対談で語っている、まさにその言葉が風貌に現れているといった感じがした。彼の場合の戦い、とはゆったりした普段の静かなものであるけれども。このセミナーは大盛況で、若い人たちの熱気に包まれていた。グローバル化した人類のモラルの指針がこの中年の作家にかけられている、とまで言えそうだった。私自身も素直にそれに従うことができると思った。例えば、いま、自分の人生に空しさを感じているものにとって、気持ちをやや、和まされる、絶望のほうに煮詰まって行かない何かを感じさせるような。いま、ルーブル美術館を地方都市に移転させる仕事をしているという、ラング元文化相に私は好感をもっているけれども、同類のような気がする。『パワナ』は捕鯨史上名高い、メキシコ湾の鯨の繁殖地の発見と虐殺の話。ごく短編だから、作品を読んだだけでは味わいが薄いかもしれない。幾度も繰り返して読めば、そのよさがじわじわと沁みてくるといった種類の作品。この集英社版では、菅野さんの解説が半分ほどもあって、訳にあたっていかに訳者が勉強しているかが如実にわかる。作者の作風も、代表作の紹介もあり、懇切な解説だ。大切にしたい本。これがブックオフで105円なのだから、いやになる、でも貧乏な者にはラッキー。(複雑だ)。
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